ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「うえ゛っ……!? えほっ! ごほっ!!」
唐突に核心を突く質問を投げかけられた楽人が盛大にむせる。
僕たちもまた予想外の展開に動揺する中、おばさんは話を続けていった。
「これもうおばちゃんの勘なんやけど、どっちか狙ってる気はするんよな~! いや、逆パターンもあるかもしれへんけどね? こっちの子たちのどっちかが、お兄ちゃんを狙ってるみたいなさ」
「そっそそそ、そんなわけないじゃないっすか!! ちょっ、マジで恥ずかしいから止めてくださいって!!」
「んん……? そうなん? なんかちょっと、話したいことがある雰囲気に見えたんやけど……おばちゃんの勘違いやったかな……?」
「っ……!?」
腕を組み、首を傾げながらの彼女の言葉に、楽人……と、熊川さんが息を飲む。
ある意味では大正解な勘を働かせたおばさんは、そう言った後でニカッと笑うと手を振りながらこう話を締めた。
「ごめんな~! ちょっとおばちゃん、初対面の子たち相手にずけずけ言い過ぎたわ! そのお詫びってことでたこ焼きサービスするから、もうお腹いっぱいになるまでたらふく食うてってな!!」
そう言って、大声で笑いながら僕たちの席を離れ、厨房へと向かっていくおばさんを見送った後……僕はちらりと楽人の様子を窺った。
気まずそうにしている親友に何かを言おうとした僕であったが、そこでひよりさんが口を開く。
「ごめん! あたし、ちょっとトイレ行ってくるね!!」
「あ~、じゃあ私も一緒に行こうかな?」
そう言って立ち上がったひよりさんと鉢村さんが、僕へと意味深な視線を向けてくる。
彼女たちが何を言わんとしているかを理解した僕もまた、席を立つと共に言った。
「僕もちょっともよおしてきちゃったし、今のうちに行っておこうかな?」
「え? お、おう……!」
自分たちを残して次々と席を立つ僕たちを驚いた眼で見つめる楽人。
ただここで自分も一緒に行くと言うと、熊川さんを一人残してしまうことになるし……彼女を避けているように思われるのが嫌だと考えたであろう楽人は、軽く手を上げて僕たちを見送り、席に残ってくれた。
そんな二人を席に残し、トイレに向かうふりをした僕たちは、物陰に隠れてこっそりと様子を窺い始める。
微妙な空気にも思えるが、先ほどのおばさんの言葉はいいきっかけになるはずだと……そう考えながら見守る僕たちの視線の先では、楽人と熊川さんが何か言いたそうにしながら視線を泳がせ続けていた。
「あ、えっと、そのぉ……」
楽人だって馬鹿じゃない。ここで僕たちが席を立ったのは、敢えて自分と熊川さんを二人きりにしようとしたからだということに気付いているだろう。
ここで自分がどうすべきかも理解している彼は何かを言おうとしては口をもごもごさせていたが……そんな楽人へと、熊川さんが先に口を開いた。
「……ごめん、遊佐くん。その、私、遊佐くんに対して怒り過ぎたっていうか、ひどい態度取っちゃったこと、反省してる」
「えっ……!?」
自分が先に謝ろうとしていたところで、逆に熊川さんに謝罪されてしまった楽人が口を半開きにした驚きの表情を浮かべる。
熊川さんは俯きがちにだが、しっかりと彼へと謝罪の言葉を重ねていった。
「普通に考えたら、遊佐くんにはバスケ部の中での立場もあるわけだし、紫村を邪険に扱うわけにもいかないもんね。そもそも不意打ちみたいな真似されて、隙を突かれただけだし……一つの場面だけ切り取って、遊佐くんに辛く当たってた、ごめん」
「い、いや、そんな! 熊川さんが謝る必要なんてないって!! 俺がちゃんとしてなかっただけだし、失望されて当然だよ!!」
「そんなことないよ。一番被害を受けたひよりや尾上くんが理解を示してるのに、私だけが勝手に熱くなっちゃってさ……遊佐くんにひどいこと言っちゃったと思う。本当にごめんなさい」
「熊川さん……」
時間をおいたことや、行きの新幹線の中でちゃんと考えたことで、熊川さんも本当に冷静になったのだろう。
自分の態度を謝罪し、頭を下げる彼女へと、楽人がこう言葉を返す。
「……そんなに気にしないでよ。俺は本当に気にしてないって言うか、むしろ申し訳なく思ってるからさ。その、本当にごめん……」
「ふふっ……! なんか、お互いに謝ってばっかだね。ひよりたちにも気を使わせちゃったし、申し訳なさマックスだ」
「あとでみんなにも謝らないとな……でもその前に、ちゃんと仲直りできたって報告しよう」
「そうだね。うん、そっちの方が先だ」
少しぎこちなさがあったが、そう言った二人が笑い合う姿を見た僕たちは、心配事が消え去ったことを確信し、安堵の笑みを浮かべた。
最初から少しボタンの掛け違いがあっただけで、きっかけさえあればこうなるとは思っていたが……やはり、友達が元通りの関係になってくれたことは喜ばしいことだ。
本当にこの旅行がいいきっかけになってくれて良かったと思いながら、僕はひよりさんと鉢村と一緒に喜びを分かち合うのであった。