ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「あっ、いた! 良かった~! 二人が部屋に戻ってなくて~!」
「遅くなったのはあんたらがくだらない喧嘩してたからでしょ?」
「いいじゃんもうその話は!! はい、二人のところにダッシュした!!」
ぱたぱたと小走りでこちらに近付いてくるひよりさんたちへと、手を上げて応える。
楽人もやや緊張気味に彼女たちを見つめる中、三人が普通に話をしてきた。
「お風呂、気持ち良かったね~! 露天風呂は入った?」
「残念ながらこっちは人が多かったから、大浴場だけにしちゃったかな」
「あっ、そうなんだ? 女風呂は私たちだけだったから、ほぼ貸し切りみたいになってたのにな」
「結構運が良かったんだね、私たち!」
「良かったじゃん。ちょっと羨ましいな」
こんな感じに僕たちと話をしている三人からは、風呂上がりらしくシャンプーのいい香りがした。
火照った頬だとか、ホテルで用意されている浴衣姿だとか、普段はなかなか見れない女子たちの無防備な姿に僕と楽人は少しドギマギしている。
ひよりさんのパジャマ姿を見慣れている僕ですらこんな感じなのだから、楽人はかなり緊張しているんじゃないかな~なんて僕が考える中、熊川さんがこんなことを聞いてきた。
「尾上くん、何飲んでるの? お茶?」
「ああ、うん。楽人が奢ってくれたんだ」
「そっか、それでついでにおしゃべりしてたんだね? だとしたら遊佐くん、ファインプレー!!」
「えっ!? ど、どういうこと!?」
ビシィ! とサムズアップをする熊川さんから意味不明な流れで褒められた楽人が困惑しながら理由を尋ねる。
好きな女の子に褒められたのは嬉しいが、ただでさえ緊張しているところにそんなことを言われたら気分が落ち着かないよなと考え、苦笑する中、鉢村さんが代わりに説明をしてくれた。
「いや、親御さんとの約束でお互いの部屋に出入りはしないって話になってるじゃん? でも寝る前に尾上くんとちょっと話したいな~、ってひよりが言っててさ~……」
「あ、ああ、そうなんだ? 僕たちはさっさとお風呂から出ちゃったから、下手したら合流できなかったかもだもんね」
「っていうより、こっちは先に出てこの辺で二人を待ってようって話をしてたんだけど、いざお風呂から出ようって時にひよりと優希がデカケツだの貧乳だのでアホみたいな言い争いをし始めたせいで遅くなっちゃったんだよね」
「で、デカケツ……?」
「ひ、貧乳……!?」
「ちょっ!? 玲香!! それを二人に言わないでよ!!」
「男子には聞かせられないデリケートな話やぞ!!」
あまりにも自然に飛び出してきた危険なワードにぎょっとする僕と楽人。
その後、浴衣を着ているひよりさんの下半身をチラ見し、う~んと唸る僕へと、彼女が言う。
「よし、雄介くん、今の話は忘れよう。忘れたね? 記憶の彼方に忘却したよね?」
「う、うん……そういうことにしておくよ」
自分で言うのはいいが、他人にお尻が大きいことを弄られるのは嫌いなひよりさんの気持ちを尊重し、僕はこの話を忘れることにした。
楽人の方も熊川さんから何やら詰められているようで、申し訳ないがちょっと面白いなと思ってしまう。
「遊佐くん? 今一瞬、私たちの一部を見比べなかった?」
「えっ!? いっ、いや! そんなことしてないって!! 流石にデリカシーがなさ過ぎるでしょ!?」
「ホントかな~? なんか綺麗な山が四つ並んでるのに、一つだけ絶壁があるとか思ってないかな~? ここだけ妙に寂しい風景だなとか考えてないか~? ええ?」
「大丈夫だよ、優希。あんたには、比べるほどのものもないじゃん」
「よっしゃ玲香! 表に出ろ! 持たざる者の恐ろしさを思い知らせてやんよ!」
「どうでもいいけど、私に喧嘩売るならせめてBカップ以上になってからにしてくんない?」
無慈悲な鉢村さんの言葉がクリティカルヒットしてしまったのか、熊川さんは妙にエコーのかかった声で呻きながらその場に崩れ落ちた。
ひと昔の格闘ゲームみたいだなと思う僕の目には、倒れ伏す熊川さんの上に真っ赤になった体力バーと『YOU LOSE』の文字が浮かんで見えている。
「くそっ、くそっ……! いつもそうだ……持つ者は、持たざる者の気持ちなんて微塵も考えやしねえ……!!」
「だ、大丈夫だよ。別に俺は、胸の大きさなんて気にしないし、十分熊川さんもかわいいって思ってるしさ!」
「ありがとうね、遊佐くん……でも今はその優しさが逆につらい……」
割と頑張った楽人の言葉も、熊川さんには響かなかったようだ。
二人とも、別の意味で可哀想だなと考える僕へと、いつの間にか飲み物を買っていた鉢村さんが言う。
「まあ、この二人は私が面倒見ておくからさ、お若い二人はどこかでイチャついてきなよ」
ひらひらと手を振る鉢村さんの言葉に、僕もひよりさんも苦笑を浮かべる。
ただまあ、そうやって言ってくれるのならとその気遣いに乗っかることにした僕たちは、二人でグループを離れて別の場所へと移動していった。