ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「温泉旅行に行きたいからな~……近場で箱根とかいいかも!」
「あはは、さっき入った露天風呂に若干引っ張られてない?」
そう言って笑いながらも、旅行の定番である温泉は確かにいいなと僕も思う。
今回は残念ながら露天風呂には入れなかったが、次はタイミングを見計らって景色を楽しみながらゆったりと温泉に浸かるのもいいな……と考える僕であったが、ひよりさんの思惑は少し違ったようだ。
「その時は二人で行くでしょ~? で、貸し切りのお風呂がある宿に泊まろうよ!!」
「か、貸し切り? えっと、それって……?」
「ふふふ~……! 混浴しようって言ってるの!!」
楽しそうに声を弾ませながらのひよりさんの言葉に、面食らってしまった僕が大きく目を見開く。
二人きりで混浴というのはつまりそういうことで、想像しただけで恥ずかしくなってしまう僕に対して、にししと笑ったひよりさんがこう続けた。
「二人で旅行に行くって話が出る時には、もう
「ん……まあ、一理あるかな……」
現実的に考えて、ひよりさんの言うことは正しい。
二人で旅行に行けるようになっているということは、それ即ち僕たちが成人しているということだろう。
高校を卒業しているか、あるいはその寸前くらい。その年齢まで恋人に手を出さないというのは、律儀なのかもしれないが変なことだとも思う。
ひよりさんの言う通り、そういうことは済ませているのが当たり前だし……そもそも僕が我慢できる気がしない。
それに、二人で旅行に行くための資金も稼ぐ必要があるから、そこを踏まえると数年後というラインが現実的だ。
「卒業旅行とか、その辺かな……? あるいは、高校を卒業して初めてのゴールデンウイークとか……?」
「わ~お! 具体的な時期まで考え始めるだなんて、雄介くんってばそんなにあたしと一緒にお風呂入るのが楽しみなんだね~!」
「えっ? い、いや! そういうんじゃないって!!」
「むふふ~! ごまかさなくってもいいのに……! 家のお風呂で良ければ、混浴くらいいつでもしてあげるよ?」
「け、結構です!!」
いたずらっぽく笑うひよりさんのからかいに対して、僕は顔を赤くしながら全力でお断りをする。
こういう会話をしているからバカップルって言われちゃうんだろうなと自覚し、反省する僕へと、今度はひよりさんが動揺の質問を投げかけてきた。
「そういう雄介くんは旅行に行くならどこがいいの? やりたいこととか教えてよ!」
「ん? う~ん、そうだなぁ……?」
ひよりさんから旅行先の要望を聞かれた僕は、腕を組んで唸りながら自分なりの答えを探る。
普通にインドア派な僕は、旅行に行くことについてほとんど考えたことがなかったわけだが……そんな中でも色々と頭の中に残る情報を模索し、行きたいと思う場所を答えてみた。
「北海道、行ってみたいかな……?」
「おおっ、北の大地だね! ちなみにやりたいこととかある? やっぱり温泉!?」
「いや、それもあるけど、何年か前に新しい野球場が完成したんだよね。シーズンオフにバスケの試合もやったりしてるみたいだから、一度本格的なスタジアムで日本のプロバスケを観戦してみたいなって。それに、ボールパークだから試合観戦以外も色々楽しめるって話だしさ」
野球のスタジアムを中心に、レジャーやフードを充実させることで一つの町のようにコミュニティを盛り上げる構想。それをボールパークというらしい。
少し前に完成した球場がその構想の下に作り出されていて、野球以外にも様々なエンタメが揃っているようだ。
その一環として、バスケットボールの試合も開催されたという話を聞いた僕は、一度はその球場に行ってみたいと思った。
僕の趣味に付き合わせるのは申し訳ないが、どうせならひよりさんと一緒に楽しみたいなと考える僕へと、彼女が言う。
「いいね! 雄介くんらしいと思うし、楽しそうじゃん!! それに、北海道って美味しいものがいっぱいあるから、それも満喫したいよね!!」
「確かにそうだね。定番の海鮮系に搾りたてのミルクを使ったスイーツ、ジンギスカンなんかも有名だもんな……」
「あとはやっぱり味噌ラーメンでしょ! 寒い時期に行けば、美味しさアップ間違いなし!! う~ん……バターコーンのいい香りが漂ってきそう……!!」
「あははっ、ひよりさんらしいなぁ……!」
試合観戦を楽しみ、温泉も楽しむが、やっぱりひよりさん的にはグルメも大事みたいだ。
存在しない味噌らーめんのバターコーントッピングの香りを堪能するように鼻をひくつかせた後、彼女はグルメに関する話を続けていく。