ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんと雨の日のラーメン屋さん
ラーメン屋さんにて、ひよりさんと


「豚骨醤油ラーメン煮卵トッピング、おまち。こっちは特製豚骨醤油チャーシューメン大盛り野菜マシトッピングね」

 

「う、うおぉ……っ!?」

 

 ちょっと顔が厳つい店主さんがテーブルに置いたラーメンを目の当たりにした僕は、思わずそう呻いてしまった。

 

 漂うのはこってりとした豚骨醤油ラーメンのいい匂い。だが、それを以てしても隠し切れない()が目の前のラーメンから放たれている。

 もう一つのラーメンと比較しても明らかに多い太麺の量。その上には茹でたキャベツともやし、にんじんの細切りが山のように盛られており、更にそこに煮卵やら厚切りのチャーシューやらのトッピングがヤケクソ気味に追加されていた。

 

 美味しそうなのは間違いないのだが、見ているとそれより先にヤバそうという感想が出てくる特製豚骨醤油チャーシューメン大盛り野菜マシトッピングの量に僕が気圧される中、にゅっと伸びてきた手がその丼を掴み、自分の側へと引き寄せる。

 

「う~ん、やっぱり勘違いされちゃったか~。お店の人も、これをあたしが食べるとは思わなかったんだろうね」

 

 そう言いながら、圧の結晶とでも呼ぶべき大盛りのラーメンを引き寄せたひよりさんが、もう一方の普通(それでも結構大盛りだ)のラーメンを僕の方へと寄せる。

 確かに彼女の言う通り、暴食の権化と言って差し支えない特盛ラーメンを大柄な男と小柄な女の子のどちらが食べるのかと問われれば、大半の人間が間違いなく前者だと答えるだろう。

 

 バイキングの時も思ったが、やっぱりひよりさんって見た目からは想像もつかない大食いだよな~と考える僕へと、両手を合わせた彼女が笑顔で声をかけてきた。

 

「さ、麺が伸びる前に食べちゃおうよ! いっただっきま~す!!」

 

「あはは……いただきます」

 

 割り箸を手に、特盛のラーメンを食べ始めたひよりさんの姿に苦笑しながら、僕もまた自分の分のラーメンへと箸を伸ばす。

 よくスープに絡んだ太麺を啜ってみれば、こってりとしていながらもくどくない豚骨醤油の風味が口の中に広がり、その美味しさに僕は思わず頷いていた。

 

「うん、美味しい。これなら量が多くてもスイスイ食べられそうだ」

 

「学校でうわさになるだけあって、すごく美味しいね! 本当に幾らでも食べられちゃいそうだよ!」

 

 そう嬉しそうに語るひよりさんは、既に上の野菜を七割ほど片付け、麺を啜り始めていた。

 

 大食いもそうだが、早食いに関してもかなりのものだよなとまたしても苦笑した僕は、割った煮卵を頬張ってその味を楽しむ。

 

 そうしながらガラス張りの自動ドアの向こう側に見える外の景色を見つめ、未だに雨脚が弱まる気配がないことを見て取りながら、ここに来るまでに冷めた体を温めるために、ラーメンを食べ続けた。

 

 ……現在時刻、午後五時。本日、我が家には誰もいない状況になっている。

 母はいつも以上に仕事で遅くなり、次男の雅人は受験勉強に備えて友達と勉強合宿、三男の大我もそういうことならと柔道部の友達とどこかで食事をしてから帰ってくるとのことだ。

 というわけで、本日は外食をしようと決めた僕へと、ひよりさんが食事のお誘いをかけてきた。

 

 渡りに船ということでそのお誘いをありがたく受けることに決めた僕は、彼女に案内されて学校付近にある美味しいと評判のラーメン屋にやって来た、というわけだ。

 

「それにしても、天気予報もあてにならないよね。おかげでこんな天気の日に、薄着で出掛ける羽目になっちゃったよ」

 

「確かにね……まあ、そういう日もあるでしょ」

 

 この日は天気予報でも報じられていなかった雨で、外では小雨が降り続けている。

 折り畳み傘なんかも持っていなかった僕たちは学校の近くにあったコンビニでビニール傘を買い、ここまでやって来ていた。

 

 最近、気温も高くなっていたせいか上着も着ずにワイシャツ一枚だけで学校に来ていたひよりさんは、雨のせいで急に寒くなったことに文句を言っていたが……その寒さがラーメンの美味しさを引き出すスパイスになってくれているようだ。

 

「最初は雨だからめんどくさいって思ったけど、こうなると逆に有りって気がしてきたね! 体が冷えてた分、ラーメンの温かさが染みる~……!」 

 

 実に美味しそうにそう言いながらレンゲでスープを飲むひよりさんの丼の中からは、既に麺と具材が半分以上消え去っていた。

 

 これはとんでもない速度だと僕が慌てる中、少しだけ食べるペースを落としたひよりさんが話しかけてくる。

 

「ごめんね。もうちょっとゆっくりできるところの方が良いかと思ったんだけど、ファミレスとかだと学校のみんなに見つかっちゃいそうだったから……」

 

「大丈夫だよ。僕もこのお店は気になってたし、今日は早めに帰らないとマズそうだから、早めに食べられるラーメンを選んでくれて助かったよ」

 

 ひよりさんとのんびりおしゃべりをしながらご飯を食べたくはあったが、先ほどからどんどん雨脚は強くなっている。

 今は小雨だが、もう少ししたら本降りになるだろう。そうなったらひよりさんが心配だ。

 

 だから、今日は早めに食べて帰宅できるラーメンがベストだったと、そんな僕の答えを聞いたひよりさんは少しだけ安堵した表情を浮かべてくれた。

 

 悪天候もあってかガラガラなお店の中、テーブル席で向かい合ってラーメンを食べる僕は、ひよりさんへとこんな話題を振る。

 

「なんか、ひよりさんとこうしてどこかに出掛ける時って、ご飯を食べるのが定番になってるよね。まあ、まだ二回しか遊んでないんだけどさ」

 

「確かに。今日はラーメンで、この間はケーキバイキング……こんな馬鹿食いしてたら、流石のあたしも太っちゃうよ~!」

 

「あはは。でも、いいんじゃない? 僕はいっぱい食べるひよりさんが好きだよ?」

 

「む~……! そう言ってもらえるのは嬉しいけど、あたしとしてはぶくぶく太った姿を雄介くんに見せたくはないんだよなぁ……」

 

 そう言いながら、注文してしまった特盛ラーメン(既に七割は消えている)を見つめたひよりさんがため息を吐く。

 

 話題を間違ったかと慌てた僕は、咳払いをした後で彼女へとこう提案した。

 

「じゃ、じゃあさ! 次は運動できる場所に遊びに行くっていうのはどう? ボウリングとか、ミニバスとか、そういうところで体を動かせば、ちょっとしたダイエットになるでしょ?」

 

「おお、いいね。地味に次のデートの約束を取り付けようとしているところがポイント高い。でもなあ……」

 

「あ~……何か駄目だった?」

 

 ちょっと驚きながら、嬉しそうに笑いながら、僕を褒めてくれたひよりさんだったけれど……複雑な表情を浮かべながら難色を示した。

 

 何か問題があるのかと僕が聞けば、彼女は自分の服装に視線を落としながらこう答えてみせる。

 

「ほら、学校帰りに遊びに行くってなると、あたしって制服姿なわけじゃん? その状態で運動するとさ、スカートが捲れて大変なことになるっていうか……」

 

「そ、そっか……気が回らなかったよ、ごめん」

 

「ううん、気にしないで。やっぱそういうところが問題だし、スポーツ系の遊びをするなら土日ってことになっちゃうよね~」

 

 赤裸々に理由を語った後、難しい表情を浮かべながらラーメンを啜るひよりさん。

 確かにそういう事情もあるかと、恥ずかしさを覚えながら彼女に倣った僕へと、顔を上げたひよりさんが言う。

 

「もしかしてだけど雄介くん、そういうの期待してた? パンチラを拝めるシチュエーションを希望してる的な?」

 

「ぐふっ!? そんなわけないでしょ!? 僕はそんな変なことを考えるような男じゃないって!!」

 

「……あたしの尻拓、まじまじ見つめてたくせに?」

 

「ぐっ!? あ、あれは事故みたいなものだったっていうか、決して期待してたわけじゃ――」

 滅茶苦茶痛いところを突かれた僕が必死に弁明するも、ひよりさんはそんな僕の反応を楽しむようにニヤニヤと笑っている。

 既に空になった自分の丼を脇に寄せたひよりさんは空けたスペースに自分の胸を乗せると、僕をからかうような笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「まあまあ、そう焦らないで。雄介くんも年頃の男の子なんだから、おっきなおっぱいやお尻や女の子の下着に興味を持つのは当たり前だって!」

 

「いやだから、そういうんじゃないから!」

 

「ちなみにだけど、今日のあたしの下着の色はピンク色で~す! 上下セットで売ってたお気に入りのやつ! いや~、このサイズだとなかなかかわいいのが見つからないから、こういうのは貴重なんだよね~! 雄介くん、見たい? ちょっとボタン外そっか?」

 

「結構です!」

 

 白いワイシャツに首からリボンを下げた涼し気な格好をしているひよりさんが、うりうりとテーブルに乗せた自分の胸を強調しながら言う。

 ちょいちょいと制服のボタンを指差して笑う彼女にツッコミを入れた僕は、羞恥をごまかすように一心不乱にラーメンを食べ始めた。

 

「ふふふっ! 雄介くんって本当にかわいいよね~! からかい甲斐があるというか、ついついいじりたくなっちゃうっていうかさ~……!」

 

「僕で遊ばないでよ。っていうか、女の子なんだからそういう発言は慎みなって」

 

「は~い、気を付けま~す! ほら、餃子分けてあげるから許してよ。ねっ?」

 

 そう言ったひよりさんが、いつの間にか注文してあった餃子を箸でつかみ、僕へと差し出してくる。

 俗にいう、あ~んをするよう促しながら微笑む彼女がまた僕をからかっていることを理解しながら、僕は色々と諦め、差し出された餃子を頬張るのであった。

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