ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
意味深なその呟きを耳にしてしまった僕が目を見開く中、笑みを浮かべた鉢村さんが大我へと声をかける。
「え~っと……君、名前は何ていうんだっけ?」
「大我、尾上大我です!」
「うんうん、そっかそっか……! 今、中二なんだよね?」
「はいっ!」
やや無邪気に、質問に答える大我。
僕は不安な思いを抱えながら、二人の会話を見守っている。
「ちなみにだけど、君、彼女っているの?」
「あ、いえ……人生で一度もできたことないです……」
「ほほう? それは置いといて、いい体してるね! なんかスポーツやってるのかな?」
「一応、柔道部に入ってます!」
「なるほど! 通りで……!!」
鉢村さんの口からジュルリ、という涎を啜る音が聞こえたような気がしたが、僕は気にしないことにした。
「それじゃあ今は部活一筋ってわけだ? まあそりゃあ、彼女を作る暇もないよね~?」
「そう、ですね……別にほしくないわけじゃないんですけど、そうなります……」
「へぇ~! 彼女欲しいんだ!? ふ~ん!!」
おそらくなのだが、僕は半年以上鉢村さんと友人として付き合ってきて、この瞬間ほどにテンションが上がった彼女を見たことがない。
ひよりさんも何かを察し始める中、鉢村さんは核心的な部分について質問し始める。
「そうかそうか、大我くんもそういうことを考えるのか~……! 参考として聞かせてもらいたいんだけど、年上と年下、どっちがタイプ」
「年上です。上の方がいいです」
「っしゃぁ……!!」
大我から見えない位置で拳を握り締めつつ、小さな声で歓喜する鉢村さん。
弟の趣味を知っている僕は、もう何も言うまいと視線を逸らしてただただ頷いていた。
「なるほど~……!! 年上好きね~……!! じゃあ、年上でちょっとダウナー入ってて胸も大きくて腹筋フェチな女の子とか、どう思う?」
「ダウナー……って、クールみたいな感じの性格ですよね?」
「まあ、そうだね。そうとも言えるかもしれない」
「あっ、じゃあ最高です! なんかちょっと腹筋フェチとか気になる部分がちょこちょこありますけど、ちょっとクールな背が高い年上のお姉さんが好みなんで!!」
「よっしゃキタコラァ!!」
……鉢村さんの心の声が、聞こえてきたような気がした。
そうなのだ。大我は落ち着いた年上の女性が好きで、鉢村さんはある意味その属性に適合している女性なのである。
逆に鉢村さんは腹筋が割れた年下の男の子が好きという、思ったより相性が抜群な二人の邂逅に僕が戸惑う中、彼女は大我にクールな微笑みを浮かべながら言う。
「これも何かの縁だしさ、連絡先とか交換しておこうよ。この間のお礼もしたいし、ね?」
「えっ? あ、はい。別に構いませんけど……」
スマホを取り出し、大我と連絡先を交換し始めた鉢村さんの背中から、喜びのオーラが噴き出す。
まあ、あとは若い二人に任せようという、半ば諦めの感情を抱いた僕であったが……その横で、雅人が憤怒の形相を浮かべながら涙を流していることに気付いた。
「おい、ちょっと待てよ……! 尾上家三兄弟のモテない属性はどこに消えた? いや、消えるんだったら三人そろって消えてくれよ。どうして俺にだけ春が来ねえんだよ……!?」
「ああ、えっと……ドンマイ、雅人」
「同情するなら金をくれ!! っていうか、一番最初に非モテ脱出したお前に言われると、無性に腹が立つんだよ!!」
おいおいと号泣し始めた弟を不憫に思った僕は、たこ焼きを奢ってやろうと決めた。
そんな中、連絡先を交換し終えた鉢村さんがホクホク顔で戻ってくる。
「いや~、ごめんごめん。ちょっと話し込んじゃったよ」
「う、うん……楽しめたみたいで、僕も嬉しいよ……」
「ありがとうね、尾上くん……いや、
助けて、怖い。多分大我にとってはいいことなんだろうけど、次男が泣き、クラスメイトが義妹になろうとしているこの状況は僕にとってカオスでしかない。
なんで文化祭が始まって早々にこんな状況に放り込まれてしまったんだと思いながら、僕はひよりさんと顔を見合わせ、深いため息を吐くのであった。