ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
弟たちがやって来てからほどなくして、僕たちのたこ焼き屋には大勢のお客さんたちが訪れるようになった。
想像以上の盛況っぷりに驚きながら、僕たちは一丸となって注文を捌いていく。
あっという間に席が埋まり、お客さんたちにたこ焼きを提供して……とやっている間にも、待機の列は伸び続けている。
ただ、接客をする側の僕たちにとっての忙しさのピークは席が埋まってすぐの段階だったわけで、満席になってからは逆に落ち着いて作業を行えていた。
「五番テーブルが空いたから、片付けてから次のお客さんを案内するね~!」
「一番テーブルももう少しで空きそう。準備しとくわ」
事前に十分なシミュレーションをしておいたおかげもあってか、クラスのみんなはピークが過ぎてからはかなり余裕のある対応ができるようになっていた。
文化祭が始まってからおよそ一時間が経った頃、お店の様子を確認した楽人が働いているメンバーへと言う。
「良し、そろそろ交代メンバーが戻ってくるだろうし、一部のメンバーは休憩に入ってくれ」
「こうしてみんなでお店をやるのも楽しいけど、やっぱり他のクラスの出し物を見て回らないとね!!」
楽人の言葉に、熊川さんも笑顔で同意する。
お店も落ち着きつつあるし、確かにそろそろ交代するにはちょうどいい頃合いだなと考える僕へと、楽人は言った。
「雄介、お前も七瀬さんと一緒に文化祭を楽しんでこいよ」
「えっ? いいの? もう少し様子を見てからの方が……」
「お前の場合、そう言って最後まで残るのが目に見えてるんだよ。折角の機会なんだから、楽しめる時に楽しんでこいって!」
「楽人……」
親友からの気遣いを感じて少し感動する僕へと、他のクラスメイトたちも次々に声をかけてきた。
「そうだよ! 尾上くんは準備からずっと頑張ってくれてたんだし、本番くらいは私たちに頑張らせてよ!」
「かわいい彼女がいて、文化祭を楽しまないだなんて嘘だろ? 遠慮せずに行ってこいって!」
「そんなことしてると、七瀬さんから「仕事とあたし、どっちが大事なのよ!?」って言われちゃうぞ!!」
……どうやらみんなは、僕に感謝してくれているようだ。
こうして遠慮するなとクラスメイトたちから口を揃えて笑顔で言ってもらえると、みんなは今日までの僕の頑張りを見ていてくれてたんだなと思える。
ここまでみんなが言ってくれているんだし……と、気持ちを切り替えた僕は、ひよりさんの方を見た。
彼女も笑顔を浮かべてこくんと頷いてくれて、その反応を見た僕はみんなへと言う。
「ありがとう。じゃあ、ここはみんなに任せるよ。文化祭、楽しんでくる……ひよりさんと一緒にね」
「お~お~! 言ってくれるじゃん! やっぱバカップルだわ~!」
僕の言葉に、熊川さんがからかうようにしてそう言う。
みんなも釣られて笑う中、僕は彼女と楽人へと声をかけた。
「楽人と熊川さんも一緒にどう? 四人で回るのも楽しいと思うんだけど……?」
「ああ、ごめん。私たち実行委員だし、どっちかはクラスに残らないとマズいでしょ? そもそも、二人の間に挟まるなんてこと、できっこないしね!」
「うっ、あ、ああ……俺たち、一緒には休憩行けないからさ……とりあえず、お前は七瀬さんと楽しんでこいよ……」
上手いこと親友にアピールの機会をあげられないかと思ったのだが、僕の目論見はあっさりと失敗してしまった。
肩を落とした楽人に背中を押された僕は、同じくエプロンを脱いだひよりさんと目を合わせ、口を開く。
「えっと……じゃあ、行こうか?」
「うんっ!」
ぱあっと明るい笑顔を浮かべたひよりさんと共に、クラスのみんなに見送られて教室を出る。
少し歩いたところで彼女の手を取った僕は、人ごみの中ではぐれないように小さな手を握り締めながら、恋人と過ごす初めての文化祭を楽しむべく、脚を進めていくのであった。