ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「優希と遊佐くん、残念だったね」
「仕方ないよ。二人には実行委員の仕事があるんだしさ」
教室を出た僕たちは、人ごみに飲まれないよう気を付けながら校舎を歩いていく。
僕たちと同じように休憩時間に文化祭を楽しむ生徒たちや、外部からのお客さんなどであふれる学校は、実に活気に満ちている。
この調子だと、他のクラスの出し物を見て回れても二つか三つくらいだな……と考える僕へと、難しい表情を浮かべたひよりさんが言う。
「改めて考えるとさ、文化祭デートって何をすればいいのかわかんないよね。シンプルに困る」
「あはは……! 確かにそうかもね」
学生の身としては文化祭デートという言葉に憧れるような響きを感じてはいるが、実際にやってみると少し困ったりするのが本音だ。
普通のデートと違い、ほぼノープランで回る上に休憩時間が終わるまでに戻ることを考えなければいけないので、地味に予定を立てるのが難しかったりする。
ひよりさんも時間が少ないことを理解しているようで、ここはとりあえず行きたいところを絞って回ろうということで僕たちの意見は一致した。
「どうする? 雄介くん、どこか行きたいところとかある?」
「う~ん……強いて言うなら、高塔先輩のクラスのおでんを食べに行きたいかな……?」
とても残念なことに、たこ焼きの準備に勤しんでいた僕は他のクラスが何をするのかほとんど情報を仕入れていない。
唯一知っている出し物について言えば、ひよりさんはくすくすと笑った後でこう言ってくれた。
「じゃあ、おでん屋さんに行くのは決定ね! 他にも面白そうなのがあるかもしれないし、学校の中をぶらついてみようよ! それで、空いてるところがあったら覗いていく感じにすればいいんじゃない?」
「ああ、うん。そうだね」
いきなり方針を転換させてしまって申し訳なかったが、そういう部分もきちんと考えてくれるひよりさんの心遣いは本当にありがたい。
緩く楽しむ形に気持ちを切り替える僕に対して、ひよりさんは笑みを浮かべながら言った。
「まあ、初の文化祭デートだしね。今回は二年目、三年目に向けての情報収集をするつもりでいこうよ」
「その考え方いいね! でも、今年も目一杯楽しむ気でいるから、ひよりさんもそのつもりでね!」
ひよりさんの言葉に、半ばおどけながら僕は言う。
楽しそうに笑った彼女は、ふんふんと鼻を鳴らしながら弾んだ声で僕へと呟いた。
「わかってたことだけど、雄介くんも三年間あたしと文化祭デートするつもりでいてくれて、すごく嬉しいよ。うん……嬉しいし、安心する……」
そう言いながらきゅっと手に力を込めたひよりさんが僕の手を強く握る。
それに応えるように彼女の小さい手を握り返した僕は、微笑みを浮かべながら言った。
「ひよりさんの方こそ、二年目も三年目も僕とデートしてくれるつもりでいてくれてありがとう。毎回、楽しい思い出を作れるように頑張るよ」
「頑張るのは雄介くんだけじゃなくって、あたしもでしょ? まあ、そもそもデートで頑張るってなんか変じゃない?」
「あはは! 確かに!! デートは頑張るものじゃなくって、楽しむものだもんね!!」
声を上げて笑いながら、僕はひよりさんの意見に同意する。
まだ少したこ焼き屋で働いていた時の仕事モードというべき思考が残っているのかもなと真面目な考えを振り払った僕は、気楽に彼女へと声をかけた。
「いつも通り行こうか。特に意識とかしたりせずにさ」
「うんうん、それが一番だ!」
行く場所とか、何をするとか、そういうのは関係ない。ひよりさんと二人で過ごせるこの時間を、思い切り楽しめばいい。
いつものデートでしていることを文化祭を舞台にするだけだと結論付けたところで、最初の目的地である高塔先輩たちのクラスが見えてきた。
「おっ、いい感じに空いてるみたい! 食べていこうよ!!」
ひよりさんの言う通り、おでん屋さんはそこまで混雑していないようだ。
今ならすぐに席に就けると見て取った僕は彼女に頷くと共に、ポケットから財布を取り出すために手を放す。
その時、開かれていくひよりさんの手から残念そうな雰囲気を感じ取った僕は、いじらしい態度を見せるかわいい恋人の様子に笑みを浮かべながらおでん屋さんへと入っていった。