ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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今が幸せだから、浮気女のことなんてどうでもいい

「えっ!? ああ、ごめん!」

 

 自分ではそんなつもりはなかったが、ひよりさんの様子から察するに僕は相当ひどい顔になっていたようだ。

 慌てて謝罪する僕へと、小さく息を吐いた後で彼女が言う。

 

「ううん、気にしないで。無意識だったんだし、雄介くんの気持ちもわかるからさ」

 

 ひよりさんはそう言ってくれるが、やはり申し訳ない。

 楽しい文化祭デートの空気を台無しにしてしまう真似をしてしまったことに罪悪感を抱く僕であったが、そんな僕に対してテーブルに両肘を突いたひよりさんが微笑みを浮かべながら言う。

 

「紫村のこと、やっぱりまだ怒ってるんだ?」

 

「まぁ、うん。あんまり気にしないようにした方がいいってことはわかってるんだけどね」

 

 メイド喫茶から連想して思い出してしまうのは、少し前に僕にちょっかいをかけてきた紫村のことだ。

 ひよりさんを傷付けるために僕に接触してきたこともそうだが、その前から彼女を探すためにストーカー紛いの行動やそもそもの元凶である江間との浮気なんかもしていたわけで、いい印象を抱いているはずもなかった。

 

 これまではわざわざ紫村と関わってもひよりさんが嫌な気持ちになるだけだからと無関心を貫いていたが……先日のあの行動を経て、僕の心の中には明確な彼女へと嫌悪感が渦巻くようになっている。

 そういった感情を持つこと自体が良くないことだし、実際にひよりさんを怖がらせてしまったわけだからと後悔する僕であったが、彼女は優しい笑みを浮かべながらこう言ってくれた。

 

「別に気持ちに蓋をする必要なんてないって。あたしのことを気遣う必要はないし、紫村のことを気にしないようにする必要もないよ」

 

「でも、それで今みたいなことがあったら……」

 

「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃったけど……今はむしろ嬉しいって思えてるからさ」

 

「えっ……?」

 

 妙なことを言うひよりさんへと顔を向ければ、彼女は微笑みを浮かべたまま、こう言葉を続ける。

 

「あたしのことなのに、あたし以上に怒ってくれる雄介くんのことを見てると、逆に冷静になれるってこともあるけど……大好きな人が自分のために怒ってくれるんだなって、そう思って嬉しくなるんだ。怒りっぱなしになっちゃったらすっごく困っちゃうけどね」

 

 あはは、と冗談めいた言葉を付け加えた後、おでんを一口。

 ハフハフと熱そうに息をした後で口の中のこんにゃくを飲み込んだひよりさんは、しみじみとした雰囲気で言う。

 

「それにほら、あいつが江間にちょっかいかけてくれたおかげで、雄介くんと出会えたわけだしさ……そういう意味では、感謝しないといけないかもね!」

 

「ひよりさん……」

 

 そう笑顔で言ってのけた彼女の姿に、モヤモヤとしていた僕の心がすっと穏やかになった。

 全く怒っていないというわけではないのだろう。だが、ひよりさんは紫村に対して、もうどうでもいいといった思考に達しつつある。

 

 それは多分、彼女が今に満足してくれているということで……端的に言えば、僕と付き合って幸せだと思ってくれているということだ。

 十数年の付き合いがあった幼馴染に浮気されて、裏切られて、それだけひどい目に遭ったというのに、そんなふうに思えるようになるなんて……本当に良かったと思う。

 

 そんなふうに言ってもらえる彼氏になれて良かったと、ひよりさんの言葉で紫村への感情を吹き飛ばすことができた僕も、笑みを浮かべながらおでんを口に運んだ。

 じんわりと広がる温かい味……これがきっと、幸せの味なんだろうなと思いながら微笑みを浮かべ、大切な人と過ごせる今という時間に感謝の気持ちを抱いて――

 

「それはそれとして雄介くん、メイドさんに興味あるんじゃないの?」

 

「……うん?」

 

 ――このままいけばいい感じの雰囲気で終わるはずだったのに、なんだか妙な言葉が聞こえたような気がした。

 ここまでの空気をぶち壊すその言葉に顔を上げれば、実に楽しそうなひよりさんがニヤニヤと笑いながら僕を見ているではないか。

 

「前も話したかもしれないけど、本当はメイドさんが好きなんでしょ? 正直に言っちゃいなって!」

 

「いや、それはラーメン屋さんで決着がついた話じゃないかな……?」

 

 前にもからかいのネタを増やそうとしたひよりさんにそういう話を振られたが、そこでこの話は終わったはずだ。

 そう言う僕であったが、ひよりさんはちっちっと指を振ってからこう言葉を返す。

 

「違うね! あの時は雄介くんの好みを把握しつつ、あたしのメイドコスプレはいつかのお楽しみでって話で終わっただけだよ!」

 

「えっと、う、う~ん……?」

 

 何か嫌な予感がする。いや、微妙に良い予感でもあるのが怖い。

 彼女が何を言いたいのかわからずに困惑する僕に向け、ひよりさんは自分のスマホを取り出すと、テーブルに置いたそれの画面を見せつけてきた。

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