ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「な、何、これ……?」
「ほら、前に言ってたでしょ? あたしに合うサイズのメイド服があるのか心配だって……気になったから、ネットで調べてみたんだ! で、見つけたのがこれ!!」
そう笑顔で言ったひよりさんが某通販サイトの注文履歴に表示されている、メイド服の写真を拡大する。
がばっと胸元が開いた、猫耳カチューシャ付きのメイド服を目にした僕は、とてもいい笑顔を浮かべている彼女とその服の写真を交互に見つめ続けるしかなかった。
「えっと……これ、もう買ったの……?」
「買ったどころか届いてるよ!! 今、家にある!! 試着もして、サイズ確認も完璧だったから、その気になれば見せてあげられるね!!」
「ええ……っ!?」
もう完全に準備完了どころの状態じゃないくらいに仕上げてるひよりさんの言葉に、思わず呻き声を漏らしてしまう。
ラーメン屋で話をした日から着々と準備を進めていたとしか思えない彼女の大胆さには本当に脱帽だなと思いながら、少し気になったことを質問してみた。
「あの、ところでなんだけどさ、どうして猫耳?」
「だって雄介くん、こういうの好きでしょ? 好みはわかってるんだからね~!」
「うぐぅ……!」
……認めたくないが、確かにこういうかわいいデザインは好きだ。
胸の谷間が見えるから目のやり場には困るけど、それを除けばこの猫耳メイド服は僕のツボをかなり抑えている。
もしかしたら……いや、もしかしなくても、ひよりさんは僕の好みを大分理解しているのだろう。
小悪魔のように笑うひよりさんの背後で尻尾が揺れているような、そんな幻覚が見えてしまうくらいには彼女のからかいに押される僕に対して、ひよりさんが甘い声で囁く。
「折角だし、今度見せてあげよっか? 雄介くんも、見てみたいでしょ?」
「んっ……!!」
ごまかすようにお出汁を飲み、咳払いをする。
ひよりさんが言う通り、このメイド服を着た彼女を見たいかと聞かれたら、僕は首がもげるくらいに何度も頷いてしまうだろう。
「正直になりなよ~……! あたしもそのために用意したんだしさ~……!!」
「ぐうぅ……」
「それに、このままいつまでもメイド服といったら紫村、みたいなイメージが雄介くんの頭の中に残り続けるのは嫌だし……全部、あたしで塗り潰しちゃおっかなって……」
紫村のことなんてどうでもいいとひよりさんは言っていたが、それはそれとして譲れない部分もある。
かなり強引に、僕の中から彼女の存在を消そうとしているひよりさんは、少しばかり湿度を感じさせる笑みを浮かべていた。
ただ、僕もそんなふうに嫉妬紛いの感情を抱いてもらえることを嬉しく思ってしまっていて……少しよろしくないなという気持ちになる。
でも、最初の質問に対する答えは決まっているなと考え直した後、僕は正直に彼女へと言った。
「……見たいです。今度、着て見せてください」
「ふふふ……っ! 正直なのはいいことだ。じゃあ、今度見せてあげるね」
満足気に笑ったひよりさんの声からは、とても甘い響きが感じられる。
その声に、話の内容に、恥ずかしさを覚えてしまった僕が耳まで顔を真っ赤にする中、彼女はこう続けた。
「他にも着てもらいたい衣装があったら、雄介くんが用意してくれてもいいんだよ? そろそろハロウィンだし……好きな服、着てあげるからね」
「んんっ……!!」
その言葉に、一瞬不埒な妄想を膨らませてしまった僕が、顔を赤くしながら唸り声を漏らす。
そんな僕の反応を見つめながら、楽しそうに笑ったひよりさんは……何事もなかったかのようにおでんを頬張り、上機嫌に鼻歌を口ずさむのであった。