ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「な、なんだって!?」
私の言葉に、男たちが血相を変えて叫ぶ。
しめしめと予想通りの反応を見せてくれた取り巻きたちの様子を見ながらほくそ笑む私の前で、男たちはC組の連中に文句を言いにいった。
「おい、お前ら! 何てことしてくれたんだ!」
「オーダーミスでロシアンたこ焼きを出すだなんて、大問題だろ!?」
「おかげで二奈ちゃんが大変な目に遭ったじゃねえか!!」
「えっ!? ええっ!?」
レジを担当していた熊川が、大きく目を見開いて叫ぶ。
その後、口元を押さえる私の姿を見たあいつは一瞬カチンときたような表情を浮かべたが……必死に怒りを押し殺した態度で男たちへと言う。
「あの、本当にロシアンたこ焼きだったんですか? 何かの間違いだって可能性も……?」
「はぁ? 何言ってんだ、お前?」
「今現在、ロシアンたこ焼きのオーダーは入ってないんですよ。だから、取り違えた可能性はゼロでして……それに、万が一にも他のオーダーと取り違えないように、専用のたこ焼き機で作ってるんです。だから――」
「だから何だよ? 作ってる奴が何か間違えちまった可能性だって十分あるだろ!?」
そう……相手がなんと言おうとも関係ない。だって、あっちがミスをしていない証拠はどこにもないんだから。
熊川たちがどう反論しようとも、私が嘘を吐いていると証明することはできない。
今、ここに残っているたこ焼きが全て普通であっても、当たりの一つを私が食べてしまったと言い張れば、それを否定する材料は何もないのだ。
ロシアンたこ焼きを出すと聞いて、パッと思い付いた作戦だが……想像以上に上手くいっている。
呼び出した男たちが先輩なこともあってか、C組の連中も若干及び腰になっているのがわかった。
「待ってくださいよ、部長! 俺たち、そんなミスしませんって!!」
「してるから二奈ちゃんが大変な目に遭ったんだろうが! とりあえず、作った奴を呼べよ!!」
「そうだ、そうだ! まずはそいつに二奈ちゃんに謝らせろ!!」
途中から熊川を庇うようにもう一人の実行委員である遊佐が出しゃばってきたが、相手は所属しているバスケ部の部長……パワーバランスは出来上がっている。
そこに他の二年生の加勢もあれば、あいつが逆らうなんてことできないと思っていたのだが、遊佐は予想外の反応を見せてきた。
「……できません。今の先輩たちの前に出したら、何をするかわかったもんじゃない。それに、みんな今日まで一生懸命準備して、料理も練習を重ねてきたんです。そんなデカいミスをするだなんて、俺には思えません!」
「遊佐、お前……っ!!」
なんとまあ、格好つけた遊佐が部長の要求を跳ね除け、譲らない姿勢を見せてきた。
馬鹿な奴だと思いながらも、これでも十分私の目的は達成できていると、こっそり周囲の様子を窺う。
言い争う男たちの様子に他の客たちは引き気味で、並んでいた奴らも列から離れつつあった。
廊下の外に響く声を耳にして、野次馬も集まっているみたいで……いい感じに注目が集まっていることにほくそ笑む私の耳に、七瀬の声が響く。
「いいよ、遊佐くん。大丈夫だから」
「七瀬さん……!!」
これ以上、クラスメイトに迷惑を掛けたくないと思ったのだろう。厨房から出てきた七瀬が男たちの前に立つ。
予想通りの展開になっていることを喜ぶ私の前で、バスケ部の部長が七瀬へと威圧感たっぷりに声をかけた。
「お前か、ロシアンたこ焼きを作ったのは? お前のせいで二奈ちゃんがひどい目に遭ったんだ。謝れよ」
そうだ……これが私が求めていた展開だ。
この事態を収拾するには、たこ焼きを作った七瀬が頭を下げるしかない。
多くの野次馬が集まっているこの場で、私に屈辱を味わわせた七瀬にそれ以上の恥辱を与える……それが、私の目的だ。
きっと、七瀬もそれを理解しているのだろう。でも、あいつにはどうしようもない。
悔しくても、屈辱的でも……クラスメイトたちを守るためには、頭を下げるしかないのだ。
「とっとと謝罪しろよ! 本当は土下座させたいくらいだけど、許してやってるんだぞ!?」
「部長! いい加減にしてくださいよ! 流石にやり過ぎです!!」
別に謝りたくないなら謝らなくったっていい。その代わり、C組の出し物は、この文化祭は、最悪の空気の中で続いていくことになる。
こうして言い争っている部長と遊佐を見て、どうしていいのかわからずにおろおろしているC組の連中を見ているのも面白いし、私としてはあいつらの文化祭が台無しになるって方向でも別に構わないのだ。
(見たか、七瀬! あんたが全部悪いのよ? あんたが私の下で惨めに潰れてれば、大切なお友達が巻き込まれることなんてなかったのに……あんたが私より上に行こうとするからこうなったのよ!!)
江間を私に奪われた七瀬が、惨めな負け犬としての身の程を理解していればこんなことにはならなかった。
私を怒らせたあいつが悪いんだと、そう思いながら苦しそうな七瀬の顔を見て、胸のすくような思いに私が心の中でガッツポーズをした、その時……男の声が響く。
「すいません、遅くなりました」