ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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なんで七瀬ばっかり守られるのよ……!?(二奈視点)

「……は?」

 

(……え?)

 

 尾上の口から飛び出た言葉に、完全に勢いを削がれた部長が間抜けな声を漏らす。

 私も一瞬、その言葉の意味を理解できず、頭の中が真っ白になってしまった。

 

「わ、わさびが、ない……? う、嘘吐くなよ! だってそこに、ロシアンたこ焼きの看板があるじゃねえか!!」

 

 まだ完全に動揺が去っていないながらも、どうにか心を立て直した部長が近くの看板を指差しながら叫ぶ。

 確かにそこには『わさび入りロシアンたこ焼き、販売中! 運試しにいかが!?』という購買を煽るための文字が並んでいるではないか。

 

 であるならば、わさびが入ったロシアンたこ焼きは売っているはずだと……そう反論する部長であったが、尾上は静かに首を振ってから口を開く。

 

「確かにロシアンたこ焼きは売っています。ですが、中身はからしに切り替わってるんです。調理担当をしていた男子が調子に乗ってわさびを使い過ぎてしまって、在庫がなくなってしまったので」

 

「は、はぁ……?」

 

「幸いにも、家庭科室で調理場が隣になった二年D組のおでん屋が発注ミスで大量のからしを余らせていたので、そちらを頂けたんです。疑うのなら、D組の方々に確認してくださって結構ですよ」

 

 そう尾上が語る間に厨房からタッパーを持ってきた遊佐がその中身を見せつければ、ほんの少しだけ緑色が付着しているだけでわさびが完全に空っぽになっていることがわかる。

 同時に、レジを担当している熊川が、キッとこちらを睨みつけながら言ってきた。

 

「注文した人には中身がからしになってるけど大丈夫かって一声かけてから提供してるの! あんたはそれを知らないで、この看板と前評判だけ聞いて、ロシアンたこ焼きの中身がわさびだと思い込んでた! だからわさびの味がしたって、そう嘘を吐いたんでしょ!?」

 

「う、嘘じゃなくて、思い違いだとか勘違いの可能性だってあるだろ!? わさびもからしも似たようなものじゃねえか!」

 

「いや、わさびとからしは違うだろ。普通に考えて」

 

 必死に反論を続ける部長の言葉を否定する野太い声が教室の外から響く。

 驚いてそちらへと顔を向けた私は、話に割って入ってきたゴリラのような大男の姿を目にして、息を飲んだ。

 

「尾上くんたちのクラスでロシアンたこ焼きがどうとか騒いでる奴がいるって話を聞いて駆けつけてみれば……なんだよ、これ?」

 

「た、高塔……!!」

 

 明らかに威圧感がバスケ部の部長や他の運動部の部員たちと比較しても桁外れな大男が、うんざりした様子で呟く。

 完全に押されている部長に不甲斐なさを感じた私の視線に気付いたのか、彼は必死に大男へと食って掛かっていった。

 

「お、お前が口を挟むことじゃねえだろ? 関係ない奴は引っ込んでろよ!」

 

「いいや、あるね。ここで使ってるからしを誤発注したのも、尾上くんたちに使ってくれと頼んだのも俺だ。それ関連でトラブルが起きたってんなら、俺だって話を聞いた方がいいだろ? つっても、これは完全に嘘のクレームみたいだけどな」

 

「う、嘘!? そんなわけない! 二奈ちゃんが嘘を吐くわけが――!!」

 

 必死に噛み付く部長だが、完全に旗色が悪い。

 ただただ醜く足掻いているだけの彼と話をしていた大男は、大きくため息を吐いた後で私の取り巻きたち全員を見回してから言う。

 

「あのよ……お前ら、恥ずかしくねえの? 自分が今、どんだけダサいことしてるかわかってねえのか?」

 

「っっ……?!」

 

「明らかにおかしなことを言ってる女の子の意見に振り回されて、後輩の店で大騒ぎしてよ……馬鹿以外のなんでもないだろ?」

 

「ばっ、馬鹿じゃねえ! お、俺たちは――!!」

 

「その二奈ちゃんってこの証言にはおかしな部分がある。逆に、尾上くんやこの店の子たちは万が一の失敗もないようにちゃんと工夫して、事故が起きないようにしてたし、そもそも事故の原因になるわさびもねえ。これでどうして、その子が嘘を吐いてないって言い張れるんだよ?」

 

「う、ぐ……」

 

 完全に……部長はK.Oされた。何も言い返せなくなった彼と同様に、私の取り巻きの男たち全員が口を噤んで俯き、無言になる。

 

「……他のお客さんたちの迷惑になるから、出て行ってください。このことは、後で先生たちに報告させていただきますから」

 

 最後に遊佐が放った言葉が、完全なるトドメになった。

 後輩である遊佐に何も言い返せず、すごすごと教室を出て行く部長に続き、他の男も小さくなりながら退散していく。

 

「あんたもだよ、紫村。さっさと出てけ」

 

 冷ややかな鉢村の声に、私もぶるぶると屈辱に体を震わせながら教室を出て行く。

 その寸前、私の視線から七瀬を庇うように立つ尾上の姿を見た瞬間、惨めさが爆発した。

 

(なんであいつばっかり……なんであいつばっかり!!)

 

 尾上も、遊佐も、クラスの連中も、謎の先輩だって……七瀬を守る。庇おうとする。

 私にはこんなに頼りない男たちしかいないのに、どうしてあいつばっかり守られている?

 

 ズルい、ズルい、ズルい。なんで私がこんなに惨めな目に遭わなくちゃならないんだ。

 わさびがなくなってただなんて、そんな運まで味方に付けるだなんて……なんで七瀬ばっかり恵まれてる? 愛される?

 

 教室を出てもひそひそと聞こえてくる嘲笑を耳にした私は、居ても立っても居られなくなって足早にその場を立ち去る。

 こうして、文化祭を舞台にした私の復讐は成功するどころか、逆に惨めさを味わわされる結果を呼び……私は悔しさに打ち震えながら、全てから逃げ続けるのであった。

 

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