ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――紫村の迷惑行為こそあったものの、僕たちは楽しく文化祭の一日を過ごしていった。
たこ焼き屋は大繁盛で、トッピングが途中でなくなってしまうメニューもあったくらいで、慌ただしい時間を過ごしながらもクラスのみんなで充実した時間を共有することができて、嬉しかった。
途中、ちょこちょこ抜けては簡単に食べられるフランクフルトやデザート系の料理を持ち込んで、こっそり裏方で食べたりして……そういうのもなんだか、とても楽しかったと思える。
家族も顔を出してくれたし、今日という日は本当にいい思い出になった。
そうこうしている間に時間は過ぎ、夕方……たこ焼き屋の営業も終わり、閉会式が行われる。
あまり中身がない校長先生のお話だとか、実行委員長の挨拶だとか、そういったものの後で始まるのは、後夜祭だ。
僕も初めての経験だから、勝手なイメージでキャンプファイヤーを囲みながらわいわい騒ぐようなものを想像していたのだが、最近は安全対策のため、学校で火を使うような後夜祭はできないということだ。
結果、体育館で軽音楽部なんかがコンサートを行ったり、全校生徒を巻き込んだイベントが開催されたり……という形になっているようだが、僕たちにとってはそんなものよりも重大なイベントがある。
余った材料を使ってたこ焼きを作り、それを食べながらお疲れ様会を開いて……十分に盛り上がったし、楽しかったねと解散の空気になったところで、楽人が熊川さんと一緒に教室を出て行った。
ついにこの時が来たのだと、事情を知る僕たち(クラスの大半)が、楽人の健闘を祈って見送った後、各自でばらばらになって後夜祭を楽しみ始める。
僕はひよりさんと一緒ではなく、まずは仲のいい男子たちとお疲れ様会の片付けをしていた。
「よし、これで終わりだな。片付け、お疲れさん!」
「こうしてると文化祭も終わりって感じがするよな~……ちょっと寂しいぜ」
「そうだね。楽しい時間だったから、寂しく感じるんだろうね……」
調理器具を洗い、教室の飾り付けも取り払ったところで、僕たちはしみじみと今日という日を振り返る。
トラブルもあったけど、準備期間も含めて楽しかったな……とみんなが同じことを考える中、友人の一人がこんなことを言った。
「そう言えばさ、売り上げ一位、A組のメイド喫茶だったみたいだぜ」
「らしいな。なんかさっき放送で発表されてたの聞いたわ」
「ふ~ん、そっか。まあ、メイド喫茶だし、話題性は抜群だもんなぁ……」
微妙に興味なさ気に語る男子たちだが、本当に興味がないのだろう。
あの紫村がいるA組に一位を取られて悔しいという気持ちもなく、むしろちょっと哀れんでいる雰囲気すらある。
それも当然のことで、その一位も純然たる人気で得たものではないからだ。
僕たちのクラスで紫村が起こしたあの騒動は、多くの野次馬たちに目撃されていた。
事の詳細は伝わり切らなかったのかもしれないが、『メイド服を着た女子生徒が店の商品にクレームをつけて一緒にいた男たちと大騒ぎした』という情報が出回った結果、紫村は『クレーマーメイド』という不名誉な称号を与えられてしまったようだ。
僕から話を聞いて様子を見に行った雅人の話によると、A組のメイド喫茶にはうわさのクレーマーメイドを一目見ようと大勢の野次馬が押し寄せていたらしい。
客として中に入る者もいたようで、そういった人たちは紫村や他のメイドに扮した女子生徒に面倒なちょっかいをかけていたようだ。
結果として、客が大量に来たことで売り上げこそとんでもないことになったが、その代償にクラスの空気もとんでもないことになってしまったらしい。
紫村は今、針の筵状態かもしれないが……彼女に迷惑をかけられた僕たちからしてみれば、だから何だという話だ。
彼女の取り巻きであるバスケ部の部長をはじめとした面々もかなり気まずい思いをしているだろうし、ここからあの事件についての報告が先生の耳に入れば、またお説教もされることになるだろう。
特に田沼先生なんかはよりにもよって自分が顧問を務めるバスケ部のキャプテンが問題を起こしたと知ったら、大目玉程度じゃ済まさせなさそうだ。
あんまり楽人や他のバスケ部員に迷惑がかからないといいな~……と僕が考える中、友人たちはその楽人について話をし始めた。