ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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屋上、二人だけの後夜祭

 ……屋上から見える校庭では、何かイベントが開催されているようだ。

 ただ、どんな催しが行われているのかはわからないし、今から参加しようとも思わない。

 ひんやりと頬を撫でる夜の空気を感じながら静かに息を吐いた僕は、そのタイミングで後ろにある扉が開く音を耳にして、視線をそちらへと向けた。

 

「やっほ、お待たせ」

 

「ううん。僕も今、来たところだから」

 

 笑顔を浮かべながら僕へと手を振ってくれるひよりさんに、そう答える。

 実際、ちょっと前まで凹みに凹んだ楽人の愚痴(というより自分自身の失敗に対する自虐)を聞いていたため、僕が屋上に来たのは本当に数分前のことだだった。

 

「優希から聞いたよ。遊佐くん、残念だったね」

 

「本当にね……でも、フラれたわけじゃないしさ。めげずに頑張ってほしいな……」

 

「早めにチャンスが来るといいよね。その間、ずっと気まずい感じになっちゃいそうだもん」

 

 確かに、と少し前から考えていたことを言われた僕は、苦笑を浮かべながら頷く。

 とは思いながらも、僕はひよりさんにいたずらっぽくこう言ってみた。

 

「わからないよ? 案外、付き合う前の僕たちみたいになるかもしれないしさ」

 

「ええ~っ? それはなんか自分の浮かれっぷりを見せつけられるみたいで嫌かもな~……」

 

 そもそも、クラスのみんなもバカップルが二組になったらしんどいんじゃない? というひよりさんの言葉に、再び苦笑を浮かべる。

 僕たちも自重すべきかな~? などとは考えつつも、どうせ無意識にイチャつくから意味がないんだろうなと自分たちのことを冷静に分析した後、僕たちの話題は別のものに移っていく。

 

「紫村のことは……別にいいか。わざわざ話をするようなことじゃないもんね」

 

「うん。こんなことがあったんだし、もうちょっかいはかけてこないと思うよ」

 

 クレーマーメイドとして一躍有名になってしまった紫村は、後夜祭には参加せずに帰ったようだ。

 まあ、僕が彼女の立場でもそうするし、A組の生徒たちも厄介な事態を引き起こしてくれた紫村を歓迎しようとも思わないだろう。

 

 問題は、彼女に乗せられて一緒に騒いでしまったバスケ部の部長たちだ。

 

 田沼先生が動く事態になっているし、このまま何の処分も下されないということはないと思う。

 ただ、そのせいでバスケ部全体に何かしらのペナルティが課されるというのは、被害に遭った楽人にとっては特に理不尽な話だ。

 

 騒ぎを起こした人たちだけに処罰が与えられるといいなと思う僕へと、同じことを考えたであろうひよりさんが言う。

 

「まったく、本当に紫村の奴のせいで何もかもがハチャメチャになっちゃったよ! 遊佐くんと優希のことも、バスケ部も、あいつがいなければ何にも問題なかったっていうのにさ……!!」

 

「そうだね……でも、さっきも言った通り、今回の騒動で大恥を掻いた紫村は、もう僕たちに関わろうだなんて思わないはずだ。今回のトラブルもきっと時間が解決してくれるし……もう、あいつに悩まされる心配はないよ」

 

「……うん」

 

 恋人であった江間を奪われたことから始まり、ストーカー被害を受け、今の恋人である僕に粉をかけようとして失敗し、その腹いせに嘘のクレームで頭を下げさせようとした……こうやって列挙すると、本当にとんでもない奴だったことがわかる。

 でも、そんな紫村との関わりもこれで終わりだ。次にあいつがひよりさんに近付こうとしたら、僕だけでなく吾郎さんや睦美さん、C組のみんなも一丸となって阻止してくれるだろう。

 

 事態が発覚してからおよそ半年、浮気されていた時間を加えると一年半。

 それだけの期間に渡る紫村との因縁は、これで決着を迎えたわけだ。

 

「……ありがとう、雄介くん。あたしの傷が全部癒えるまで幸せにし続ける、って約束……ずっと守ってくれたね」

 

「お礼を言われることなんて何もないよ。僕はただ、大好きな人を笑顔にしたかっただけだから」

 

 それが、僕の本心。ひよりさんを笑顔にしたい、その想いだけで真っすぐにここまで歩いてきた。

 何も苦労なんてしていない。幸せそうな彼女の笑顔を見るだけで、僕も幸せになれる。

 

 江間と紫村、トラウマを植え付けたこの二人との因縁が終わり、自らの過去を乗り越えることができたひよりさんの言葉を聞いた僕は、少しだけ自分を誇らしく思えた。

 これで本当に……彼女を苦しめる鎖は消え去ったのだと、そうひよりさん自身が言えるようになったことを喜ぶ僕へと、真面目な表情を浮かべた彼女が言う。

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