ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「おお、雄介。遅かったな」
「ごめん、ごめん。つい、ひよりさんと話し込んじゃってさ」
適当に言い訳をしつつ、楽人の隣に座る。
ちらりと熊川さんの様子を窺ってみれば、彼女もひよりさんと鉢村さんに話しかけていた。
この感じだと、僕たちが離れている間に何か会話をしたということはないのだろう。
やっぱり大きくて分厚い壁である普通に話すという段階を突破しなければ、二人の間にある気まずさはどうにもできないと……改めてそう認識した僕は、クラスのみんなと視線で会話を繰り広げる。
『どうする? どういう感じで最初のきっかけを作り出す?』
『強引にデュエット曲でも歌わせるか?』
『馬鹿、そんなの余計にギクシャクさせるだけで終わりでしょ? 意味ないわよ』
『じゃあ会話のきっかけってどう作ればいいんだよ? 難し過ぎるだろ……!?』
意外と難しいこの問題をどう突破すべきか? みんなも少々攻めあぐねているようだ。
そんな中、楽人はフードメニュー表を手に取ると、僕に対して言う。
「そろそろ食べ物もなくなってきたし、何か頼もうぜ。雄介、何か食いたいものあるか?」
「ああ……う~ん、そうだなぁ……?」
曖昧に返事をしながら、ひよりさんへと視線を向ける。
僕のアイコンタクトを受け取った彼女はこくりと頷き、その意図を汲み取ってくれたようだ。
流石はひよりさんだと思いながら、僕は先の楽人の質問に答える。
「僕は特に思い付かないんだよなぁ……ひよりさん、何か食べたいものとかある?」
「あたしはなんでも大好きだから、これ! ってやつはないんだよね~! 優希、好きなものとかあったら言いなよ!」
「えっ!? 私!?」
急に話を振られた熊川さんは、目玉が飛び出るくらいに驚いている。
見事なパスワークで楽人から一気に彼女まで話のバトンを渡した僕たちは、とりあえず二人が話すきっかけを作れたことに頷きながらそこからも会話を促していく。
「好きなものなんでも言っちゃいなよ~! 今日はお疲れ様会だし、実行委員として頑張った優希には、食べたいものを言う権利は十分にあるでしょ!」
「楽人も、人に聞いてばかりじゃなくって自分が食べたいものを頼みなよ。一番頑張ったのは、お前と熊川さんなんだからさ」
「えっ? あ、ああ……」
「二人でメニュー見て、注文決めなって! ほら! ほらっ!!」
そうやって強引に二人を近付ける。
一つのメニュー表を二人で見る形になった楽人と熊川さんは、ぎこちないながらも二言、三言会話を交わし始めた。
「えっと……熊川さん、何か食べたいものとかある……?」
「わ、私はいいよ。遊佐くんが食べたいものを頼みなって」
「いやいや、俺はいいから。熊川さんが食べたいものを教えてよ」
「いやいやいや、私の方こそいいから、遊佐くんの食べたいものを……!!」
(う、う~ん、これは……?)
お互いに譲り合い、話が進展しない。遠慮しているというよりも相手の顔色を窺っているこのやり取りは、会話ではあるが微妙に会話になっていなかった。
これじゃあダメだと僕が落胆のため息を吐く中、見ていられなくなった男子たちが二人にツッコミを入れる。
「いやいやいや! じゃねえんだよ!! なんでお互いに遠慮しまくってんの!?」
「【譲り合い
「あっ、おぉう……」
「ご、ごめん……」
自分たちでも変なやり取りをしているという自覚があったのだろう。がっくりと肩を落とした二人が小さくなって謝罪する。
どうやら、普通の状態ではこの二人の心の殻を破壊することはできなそうだ。
強烈なインパクトのある何かを以て会話のきっかけを作らなければ、この気まずい感じはずっと続くぞ……と考えた僕は、フードメニュー表をスタンドに戻したところで……
「ん? んん……!?」
スタンドに立ててあったチラシを見た僕は、その内容を凝視すると共に
そのまま、ひよりさんと鉢村さんに手をTの形にして
「ひよりさん、鉢村さん……二人にちょっと、協力してもらいたいことがあるんだけど……!!」
そう言ってから、持ち出したチラシを二人へと見せる。
その内容を目にしたひよりさんと鉢村さんはお互いに顔を見合わせた後、仕方がないかといった様子で僕へと言う。
「まあ、雄介くんの頼みだし、あたしは別にいいけど……」
「意図はわかるけど、これは貸し一ね? その内、返してもらうから、そのつもりで」
「ありがとう……本当にありがとう……!!」
二人だけでなく僕もそれなりの代償を支払う必要はあるが、お互いの親友のためだと納得してそれを受け入れることにした。
これでダメならもうどうしようもないぞと思いながら、僕たちは策を実行に移していく。