ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「優希、ちょっと来て」
「え? 何? どうしたの?」
「いいから、ほら! こっちこっち!」
部屋に戻って少し時間が経ったところで、ひよりさんと鉢村さんが熊川さんを強引に外へと連れ出す。
困惑しながらも二人に連れられて部屋の外へと出て行った彼女を見送りながら、計画の準備も兼ねて楽人の近くに座れば、親友は即座に僕へとこう言ってきた。
「なあ、熊川さんたち、どこ行ったんだ? お前、七瀬さんから何か聞いてないか?」
「さあ? どうしたんだろうね……?」
そうやってとぼけつつ、やっぱり熊川さんのことは気にしてるんだなと心の中で思う。
彼女のことを目で追ってしまう気持ちはわかるぞと思いながらも、どうせなら男らしく行けともツッコミを入れた僕は、自分にはそこまで言える資格はないかと自分で自分の意見を撤回した。
(あとはひよりさんたち次第だ。任せたぞ……!!)
実際、この作戦の大半はひよりさんたちの頑張りにかかっている。
僕としては待つことと我慢することしかできないわけで、その部分は本当に申し訳ない。
というわけで、ひたすらに何も知らないふりをしながら待つこと十数分、ついにその時がやって来た。
勢いよく開いた扉から姿を現した三人を見た途端、みんながわっと驚きと歓喜の入り混じった声を上げる。
「わっ!? 何々!? どうしたの、それ?」
「じゃっじゃ~ん! どう? かわいいでしょ~?」
そう言いながらドヤ顔で胸を張るひよりさんは、部屋を出ていった時と違う格好になっている。
赤と黒のチェックスカートと、同じ柄のジャケットの下に白いシャツを合わせた、アイドルのような衣装を身に纏っていた。
その後ろから姿を現した鉢村さんが、セクシーなチャイナドレス姿をみんなに見せながら口を開く。
「実は、さっきフードメニューを見てた時にこのチラシを見つけてさ……」
「『ハロウィン限定・コスプレ衣装無料貸し出しサービス』? へぇ~っ! こんなのあったんだ!」
「そうそう! 面白そうだし、ちょっとやってみようって話になったんだよね!!」
という、僕が先ほど見せたチラシを手に取りながらの二人の解説に、みんなも納得したように頷く。
アイドル衣装とチャイナドレスのコスプレをしているひよりさんと鉢村さんにみんなの視線が集中する中、その後ろからこそこそと熊川さんが姿を現した。
「うぅぅ……なんで私まで……?」
「いいじゃん! 優希もそのコスプレ、似合ってるよ!!」
「私だけスタイルが違い過ぎるんだって! 二人とも胸のところがパツパツなのに、私だけ余裕ありまくりじゃんか~!」
そう言いながら泣きそうな顔になっている熊川さんだが、ひよりさんたちが言っているように滅茶苦茶かわいい。
選んだ衣装はハロウィンらしい魔女っ子のコスプレで、大きな帽子とスラっとしたシルエット、そしてフレアスカートから伸びる脚が実に魅力的な格好になっている。
ただやっぱり、二人と違って
「あ、あんまり見ないで……恥ずいってぇ……!!」
「お~ら、男子ども~! サービス精神旺盛な私たちに感謝しろ~! セクシーチャイナ娘の艶姿、その目と記憶に焼き付けな~!」
あまりにも両極端な反応を見せる熊川さんと鉢村さんは、男子たちのツボを完璧に抑えたリアクションを取っていた。
ひよりさんにももちろん大勢の男子の視線が向けられるわけで、そうなるとはわかっていたものの僕としては複雑な気持ちになってしまう。
本当はああいう特別な格好は他の男子たちには見せたくないんだよな~、という嫉妬心と独占欲が入り混じった感想を抱えながらも、親友のためだと自分を納得させる。
そうこうしている間に他の女子たちも面白そうだとコスプレ衣装を借りに行ったり、男子たちもどうせならとそれについて行って部屋の中に人が少なくなってきた。
そのタイミングを見計らい、ひよりさんが僕の前にやってきて、かわいらしく首を傾げながら言う。
「へっへ~……っ! どう、雄介くん? あたし、かわいい?」
「うん、すっごくかわいいよ。本物のアイドルみたいだ」
「本当!? えへへ~! じゃあ、このコスプレで一曲歌っちゃおっかな~っ!?」
お世辞抜きでかわいいアイドル衣装バージョンのひよりさんが、僕の誉め言葉を受けて嬉しそうに笑いながらその場でくるりと回る。
アイドルのパフォーマンスのようなかわいらしい姿を見せた彼女に僕が若干デレデレになる中、そんな僕たちのやり取りを見ていた楽人がぼそっと言った。
「雄介……お前、よく堂々とそんな恥ずかしいこと言えるよな……やっぱすげえわ」
「そうかな? 別に変なことは言ってないと思うけど?」
「まあ、そうなんだけどよ……」
「折角、こうして場を盛り上げようとしてくれてるんだもの。そのことに対して感謝の気持ちを伝えるのって、当たり前でしょ?」
「う、う~ん……」
敢えてここで、「恋人だから」というようなことは言わない。
あくまでコスプレをしてくれたことに対しての感謝の気持ちだと言って、楽人にその意識を植え付ける。
僕の発言を受けて楽人がそういうもんかと唸る中、ひよりさんがベストなタイミングでパスを投げてくれた。
「じゃあ、ちょうどいい機会だし……遊佐くんにも感謝の気持ちを見せてもらおうかな!」