ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
コスプレを楽しみ、歌うことも楽しみ、食べることも楽しみ、おしゃべりも楽しむ。
前半こそ微妙な問題があったものの、文化祭の打ち上げは参加した全員が心の底から楽しいと思えるような形で進み、あっという間に終わりの時間がやってきた。
会計を済ませて外に出た僕たちは、少し暗くなってきた空を見てから話をしていく。
「この後、どうする? 二軒目行っちゃう~?」
「カラオケで結構食べたけど、晩ご飯も食べに行っちゃうか? それにしては少し早いかもだけどさ」
「またどこかで遊んで、最後にご飯食べて解散じゃない?」
「帰らなきゃいけない人もいるかもだし、とりあえず誰がこの後も参加できるか確認しようぜ!」
どうやらみんなは二次会に行く話をしているようだ。
わいわいと楽しそうにしているみんなの会話を聞いている僕へと、楽人が声をかけてくる。
「雄介、お前はどうする? この後も付き合えるか?」
「ごめん。今日は僕が食事当番だから、家に帰らなくちゃ」
「そっか、そうなると七瀬さんも……?」
「悪いけどあたしも帰るね! この後は、残った人たちで楽しんで!」
「だよな。そっか、まあしょうがないよな」
僕たちは参加できないと言えば、楽人は残念そうな表情を浮かべた。
そんな彼へと、熊川さんも申し訳なさそうに言う。
「あ~……ごめん、遊佐くん。私もあんまり暗くなると親がうるさいから、もう帰らなくっちゃ」
「あ、そ、そうなんだ……残念だな」
「遊佐くんはどうするの? やっぱり参加する?」
「俺は――」
熊川さんからの質問に、楽人がはしゃぐクラスメイトたちを見やる。
振り返った彼は再び熊川さんへと視線を向けると、苦笑を浮かべながら言った。
「あいつらがはしゃぎ過ぎてやらかさないか心配だし、ついて行くよ。文化祭実行委員の最後の仕事だと思って、見張っとく」
「そっか。真面目だね、遊佐くんって」
「まあ一応、バスケットマンですから!」
いい感じの雰囲気の中で会話する二人のことを、僕とひよりさんは黙って見ていた。
色々あってギクシャクしていた親友たちがこうして普通に会話できるようになって本当に良かったと思う僕たちの前で、二人が別れの挨拶をする。
「じゃあ、また学校でね。バイバイ、遊佐くん!」
「ああ、また学校で……!」
とりあえず、この場では一旦解散。続けて遊びに行くメンバーは別の場所に移動する……ということになったらしい。
他の女子たちと一緒にこの場を立ち去る熊川さんを見送った後、楽人も二次会に参加するメンバーと合流し、移動していった。
「なんか懐かしいな、あの感じ……」
「ん? どういうこと?」
「初めて一緒に映画を見に行った時のこと、覚えてる? あたしを家まで送ってくれた雄介くんと、また学校でねって別れ際に話したじゃん」
「ああ、確かに……そんなこともあったなぁ……!!」
言われてみれば、確かに偶然にも僕の家に泊まることになった翌日のデートの別れ際、そんな会話をした覚えがある。
あれももう半年前の話かと思いながら、僕もひよりさんと一緒にゆっくりと歩き出した。
「なんだか懐かしい気持ちになるね。半年前って、そこまで時間が経ってるわけじゃないのにさ」
「時間の長さより、濃さじゃない? この半年間、色々あったじゃん」
「そうだね。色んなことがあったし、色々と変わったもんね……」
僕たちが付き合うようになったこととか、と笑みを浮かべて言えば、ひよりさんも楽しそうに笑った後で頷いてくれた。
確かに長さではなく、濃さでいえば本当にすごいことになってるよなと思う僕へと、彼女が言う。
「でも、変わらないものもあるよ。出会ってからずっと、雄介くんは優しいまんまだ。いつもあたしの歩くペースに合わせてくれてるしね」
「こんなふうにひよりさんと一緒に歩くことが多くなったからね。慣れみたいなもんだよ」
「あっ! それもデートの時に似たようなこと言ってた! あははっ! やっぱ変わってないな~!」
懐かしさと可笑しさを感じたようにくすくすと笑った後、ひよりさんが僕に手を伸ばしてくる。
何を求めているか即座に理解した僕は、彼女の小さな手を優しく握った。
「ふふふ……! 最初の頃は手を繋ぐのも緊張してたのに、これも慣れかな?」
「からかわないでよ。今だって緊張してるんだからさ」
別に手を繋ぐことに慣れてしまって、何も感じなくなったわけではない。
緊張も、ときめきも、何より大切な彼女が傍にいてくれる幸せも、初めて手を繋いだ日以上に感じるようになっている。
それはきっと、ひよりさんも一緒なのだろう。
嬉しそうに笑いながら力を込めて僕の手を握り返してくる彼女を見ながら、そう思った。
「……ちょっとスーパー寄っていこうか。夜ご飯、何か食べたいものとかある?」
「う~ん、カラオケで結構食べちゃったしな~……」
そんな他愛もない会話を繰り広げながら、日が沈みつつある街を二人で歩いていく。
伸びていく影には、寂しさよりも幸せの方が色濃く浮かんでいるような気がした。