ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「終わりだ……何もかもがおしまいだ……」
「あ、あの~? ひよりさん? もしも~し?」
ある日の朝、いつも通りにひよりさんを家に迎えに行った僕は、玄関先で虚ろな目をしている彼女と出くわしてしまった。
某死神が出てくる漫画か、あるいは真っ白に燃え尽きた某ボクサーのような雰囲気を纏う彼女へと、僕は尋ねる。
「あの、どうかしたの? 何かあった?」
「……たの」
「え?」
「太っちゃったの! 結構、洒落にならないレベルで!!」
ただならぬ雰囲気のひよりさんに何があったかを尋ねれば、彼女は半ばヤケクソになったかのようにそう答えてくれた。
深刻そうな様子に反して、思ったより大したことのない話じゃないかと一瞬考えた僕であったが、女の子にとって体重や体型というのは相当重大な話であると思い直し、話を聞いていく。
「心当たりはあるんだよ……! ここ最近……いや、ずっと前からそうだったけど、ラーメンやらスイーツバイキングやら行きまくってたしさぁ。文化祭の準備でたこ焼きもいっぱい食べたけど、そこはたくさん動いたからカロリー消費できてると思ってたのに……!!」
「う、う~ん……それは、大変だね……」
流石にあの食事量を相殺するのは、相当頑張って運動しなくちゃ無理だと思う……という無慈悲な発言をギリギリのところで飲み込んだ僕は、現状を把握するためにひよりさんへと質問する。
「ちなみにだけど、何キロ太ったの?」
「……雄介くん? 次、その質問したら、
僕の問いかけに対して、ひよりさんは自分の胸を掴むと上下に動かしながら脅すという謎の威圧をし始めた。
これ、最近ネットでよく見るよな~という感想と、ほぼ間違いなく卑猥な意味なんだろうな~という思いと、それはそれとしてこの話題はひよりさんにとって触れられたくない部分なんだなと把握した僕は、彼女へと言う。
「僕の目には変わってるようには見えないけどな……? 僕は気にしないし、ひよりさんもそこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
「気にするよ! その油断が命取りなんだから!!」
普通に太ったようには見えないし、多少ふっくらしていた方が女の子はかわいいとも言われている。
そもそも僕はひよりさんの体型が変わったくらいでどうとも思わないのだが……という正直な感想を伝えてみたのだが、彼女にとってこの問題は相当に重大なもののようで、必死の形相で僕へと訴え始めた。
「これから冬になって厚着になるから多少は体型をごまかせるけど、そのまま春になってみなよ!? 秋と冬で蓄積された脂肪が冬眠から覚めたクマの如く出現するんだよ!? そのまま薄着で過ごす夏になったら……か、考えるだけでも怖い!! そんな絶望的な未来、考えたくない!!」
頭を抱えてその場に崩れ落ちたひよりさんは、床に四つん這いになりながら自分にとっての恐怖を語り続けていく。
「雄介くんが私が多少、太ったくらいじゃなんとも思わないのはわかってるよ……でも、でもね! たとえばこの間話したみたいに、コスプレお披露目会をするとするじゃん!?」
あの話、本気だったんだなと改めて思いながら、僕は黙ってひよりさんの話を聞いていく。
「このままバニーガールみたいな体のラインが出る服を着てみなよ!? ウエストラインがまるわかりになっちゃうでしょ!? 横から見たら、おっぱいとお尻だけじゃなくてお腹も膨れてるな~……! って感じになっちゃうでしょ!?」
「さ、流石にそれは考え過ぎじゃ……?」
「ブルマとか履いた時にお腹のお肉が乗ってみなよ!? 脇腹がぷにっとしてるところを見られてみなよ!? ああ、ひよりさんって思ったよりわがままボディになってたんだな……って、雄介くんに一瞬でも思われたら、あたしはそのままどこか遠くに逃げ出すからね!?」
「お、落ち着いて。ね? ひよりさん、一旦落ち着こう」
ぜぇはぁと息を荒げながらそう叫ぶひよりさんを、一生懸命に落ち着かせる僕。
ここは彼女の家で、この話を睦美さんや吾郎さんに聞かれていたら余計な心配をさせかねないと慌てる僕であったが、それ以上の焦燥を抱いているであろうひよりさんは、拳を握り締めながら僕へと言う。
「ダイエットしなきゃ……!! このままじゃ『ちっちゃくてデカい』から『丸くて全体的にデカい』ひよりさんに大変身しちゃう……! そうなる前に、手を打たないと……!!」
女の子のあれこれに男の僕が口を出すのは良くないと思うが、少し心配だ。
ひよりさんは思い込みが強いというか、一度突っ走ってしまうとなかなか止まれなくなる性格だし……と不安になる僕であったが、それを吹き飛ばす言葉を彼女が口にする。
「というわけで、雄介くん……あたし、しばらく雄介くんの家でご飯食べられないから……!!」