ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「え゛っ……!?」
思わず声が濁ってしまうほどに、その発言はショックだった。
かなりの頻度で晩ご飯を食べに家に来てくれていたひよりさんが、それをストップする……彼女が言ったことを受け止められないでいる僕に、ひよりさんが心苦しそうな表情を浮かべながらこう続ける。
「だって雄介くんの作るご飯、全部美味しいんだもん! 真理恵さんたちとのおしゃべりも楽しくってついつい箸が進んじゃうから、思ってる以上に食べちゃうんだよ! そんなことしてたら、一生ダイエットできないじゃん! 丸くて太ってるひよりさん状態、無限に継続しちゃうでしょ!?」
確かにそうかもしれないが、僕にとっては何よりも重大な問題だ。
晩ご飯を食べに来てもらえないこともそうだが、この感じでいくとかなりの行動が制限されることになるだろう。
晩ご飯を食べないということは、当然ながら休日に昼ご飯も食べに来ないということだ。加えて、デートの行先からも行きつけのラーメン屋さんやスイーツバイキングが削除されるし、ちょっと小腹が空いたから喫茶店に……ということもなくなる。
映画館に行けばポップコーンを食べたくなるだろうからそこもダメ。遠出して水族館や動物園に行ったら間違いなく食事が入るからそこもダメ。テーマパークなんてフードメニューの誘惑がそこら中にあるのだから論外だ。
家にも来れない。外出もできない。つまりそうなると……ひよりさんとデートができなくなる。
それ即ち彼女と会える時間が激減するということで、学校以外で話したりできるかどうかすら怪しくなるということだ。
「ぐ、う、おおお……! うおおおおおお……っ!!」
今度は僕が呻く番だった。ひよりさんのダイエットから始まるこの問題に直面した僕は、頭を抱えながら脳内のCPUをフル活動させていく。
どうにかして、ひよりさんと会う時間を確保しなければ。申し訳ないがそこだけは絶対に譲れない。何があっても譲るわけにはいかない。
ダイエットを止めさせるというのはなしだ。僕のわがままでひよりさんのやりたいことを止めさせるというのはあってはならない。
あくまでひよりさんにダイエットをさせつつ、その中に僕も入り込む方法を考えたところで……名案を思い付いた僕は彼女の手を取り、言う。
「わかった……! ひよりさんのダイエット、僕も応援するよ! というより、協力する!!」
「え……?」
急に両手を取られ、プロポーズでもするかのような状態になった僕のことを、ひよりさんが驚きの目で見つめる。
そんな彼女へと、僕はこう言葉を続けた。
「ダイエットって大変なものだと思うんだ。ひよりさんを信用してないわけじゃないけど、一人でやって挫けちゃったって話もよく聞くでしょ? そういうことを避けるためにも、協力する誰かがいた方がいいよ!」
「協力って、具体的には何をするつもりなの……?」
「ダイエット用の食事を作ったりだとか、一緒に運動したりだとか、単純につらい時に励ますとか……やれることはいっぱいあるはずだよ!!」
さりげなく食事を作ることを提案することで先ほどのひよりさんの発言を撤回させようとしているのは秘密だ。
とにかく、ダイエットに協力することでひよりさんとの時間を確保しようとする僕は、表に必死さを出さないように説得を続ける。
「元々、誘惑が多い場所にひよりさんを連れ出しちゃったのは、僕の責任みたいなところがあるしね……それに、彼女と一緒に頑張るのも、彼氏の役目でしょ?」
「雄介くん……!!」
僕の言葉に、ひよりさんが嬉しそうに微笑む。
彼女との時間を確保したいという目的があることは否定しないが、ダイエットを応援したいというのも間違いなく僕の本心だ。
ひよりさんの悩みを取り除けるならば、協力は惜しまない……そんな僕の気持ちを感じ取ってくれたであろう彼女は、大きく頷くと共に言う。
「じゃあ、お願いしちゃおっかな。あたしもダイエットらしいダイエット、あんまやったことないし……一人だと諦めちゃいそうだしさ」
上手くいった……! これでひよりさんと離れ離れになる最悪の事態は防げたと思いながら安堵した僕は、その感情を表に出さず、微笑みを浮かべながら彼女へと言う。
「よし! 一緒に頑張ろうね、ひよりさん! じゃあ、今日はダイエットについて情報収集しようか! あっ、そういえばちょうどいいものがあったような……!!」
確か家に母が買ったダイエット特集の雑誌があったはずだ。いい感じの参考になるかもしれない。
そう考えた僕は、ひよりさんと共に彼女の家を出ると自宅へと戻り、お目当ての本を見つけ出してから、学校へと向かうのであった。