ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ふぁぁぁぁぁぁ……っ! ゆ、雄介くん、これはダメだよ……! こんなの、許されるべきじゃないよ……!!」
「とは言いつつも体は正直だね。我慢しないで、素直になりなよ」
「だって、これは……! こんなのもう、我慢できない……っ!!」
官能的な声を漏らしながら、ひよりさんが身をよじる。
顔を赤らめ、僅かに息を荒げる彼女を見つめる僕の前に、ゴトンという音と共に大きな丼が置かれた。
「へいっ! いつもの大盛ラーメン、お待ち!!」
「ああ……っ! もう無理! 無理ぃっ!!」
行きつけのラーメン屋さんで大好きな特性豚骨醤油チャーシューメン大盛り野菜マシトッピングを出されたひよりさんは、欲望の堤防を結界させて箸に手を伸ばした。
それを割りつつもカロリーの暴力とでもいうべき大盛りラーメンに手を出すかどうか迷う彼女に対して、僕は言う。
「明日から本格的なダイエットが始まるわけだし、しばらくは好きなものを食べられなくなるからね。今日は決意表明って意味も込めて、好きなだけ食べちゃいなよ」
「そ、そっか……! そうだね……! 明日からダイエットを頑張るんだから、今日が最後なんだ……! だったら、いいよね……? それにもうラーメンはできちゃってるんだし、食べないなんてお店の人たちに申し訳ないもんね……!!」
なんだかいつもと逆で、僕が悪魔みたいだ。
小悪魔みたいでかわいいひよりさんとは真逆の、本気で人を堕落させてしまう悪魔のような自分の発言にちょっと引きながら、僕は欲望に身を任せてラーメンをすすり始めた彼女を見つめる。
こってり濃厚なラーメンと分厚いチャーシューを口に含んだひよりさんは実に幸せそうで、そんな彼女を見ながら食べるラーメンは格別の味だった。
普段とあまり変わらない楽しい時間を過ごす僕たちであったが、しっかりと言うべきことは言っておかなければと思い直した僕は食事中のひよりさんへと言う。
「さっきも言ったけど、明日からは色々と制限されるからね? 運動もしっかりしてもらうし、生活リズムもきっちり整えるから。もちろん、間食もなしだよ?」
「うっ……! わ、わかってる! あたしが言い出したことだし、雄介くんにも協力してもらうんだもん! 気合いを入れてやり遂げないと!!」
こうしてラーメンを食べることで、一つの区切りをつけるという意識付けは成功したようだ。
ひよりさんもしっかりとやる気を見せているし、これで良かったと思いつつ、僕は話を続ける。
「とりあえず、明日のお弁当は僕が作るよ。夕食もダイエット用のメニューを考えるから、こっちで食べて。それ用の食材を買うついでに少し歩いて、カロリー消費しようか?」
「あ、う、うん……!」
「それと、時間がある時は運動もした方がいいよね。学校が終わった後に二人でランニングしたりだとか、お風呂に入る前に家でもできる筋トレメニューを考えておくよ」
「あ~、えっと……うん。なんか雄介くん、あたしよりも乗り気になってない……?」
「そうかな? でも、ひよりさんのやりたいことを応援するって感じだし、それを楽しんでる部分はあるかも」
「っていうかなんか、その、ちょっと……」
「ちょっと?」
少し張り切り過ぎたか、とひよりさんの反応を見た僕はそう思った。
流石のひよりさんも引いてるっぽいし、自重すべきだったかなと反省する僕に向け、もじもじとしながら彼女が言う。
「ちょっと……
「え、えっち……?」
「だ、だってさ! なんかこう、あたしのことを管理するっていうか、彼女を躾けてる感があるでしょ!? それってちょっとえっちじゃない!?」
「う、う~ん……?」
どうしよう、よくわからない感覚だ。
これってえっちなんだろうか? そうじゃないと思うけど、ひよりさんがそう思うのならばやっぱり自重すべきなんだろう。
「まあ、その、別に嫌ってわけじゃないんだけどさ……むしろちょっとゾクゾクするっていうか……」
「う、う~ん……?」
どうしよう、こっちもよくわからない感覚だ。
ひよりさんが嫌じゃないならいいんだけど、これって実際どうなんだろうと考える中、カウンターの向こう側の店主さんが言う。
「あのよ、仲がいいのは良いことなんだが、そういう話は少し声を落とすか、二人きりの時にしような?」
「あ、はい……」
「すいません……」
バカップルっぷりを見せつけてしまった店主さんに謝罪しつつ、他のお客さんたちの迷惑になっていないかを確認する。
幸いにも僕たちの会話を聞いている人は他にいなかったようだが、こういう話はしっかり場所と状況を考えてしようと思うのであった。
……とまあこんな感じで、僕とひよりさんのダイエットの日々が幕を開けたのである。