ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「うん。今日は初日だし、このくらいにしておこうか」
「お、終わった……! 思ってたよりしんどいよ~……!!」
プランクをはじめとした複数の筋トレをざっとこなした僕は、ひよりさんへと本日のダイエットメニューの終了を言い渡す。
床にくたっと倒れ伏す彼女を苦笑気味に見つめながら、念押しするように僕は言った。
「言っておくけど、筋トレは継続的にやらないと意味がないからね? 明日からも同じメニューをこなすし、慣れてきたら少しずつ負荷を強めていくから、そのつもりでいてよ?」
「うえぇ……わかってたけど、ダイエットって大変だね……」
そう言いながら座り直したひよりさんが、深く息を吐く。
運動の習慣がない人にはこういうのって必要以上に過酷に感じられるものだよなと思いながら差し出した水を飲む彼女を見守っていた僕であったが、ひよりさんはどこか嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「まあ、あたしから言い出したことだしね。明日からも頑張ろうっと!!」
「はは、良かった……思ってたよりハードだからもうやめるって言い出すんじゃないかって心配してたからさ」
「むむっ! あたしを舐めるなよ~! 確かに大変だったけど、このまま太っていって雄介くんにだらしない姿を見られるよりかは何倍もマシだし、それに……」
「……それに?」
ぐっ、と拳を握り締めたひよりさんへと、言葉の続きを促せば……彼女は、いたずらっぽく笑いながらこう言ってきた。
「ダイエットしてる間は、いつもより長く雄介くんと一緒にいられるしね。悪いことばかりじゃないよ」
「ん……! そ、そっか……!」
楽しそうに笑うひよりさんの言葉に、僕は心臓をドキッと跳ね上げる。
元々、ひよりさんのダイエットに介入することを決めたのは、彼女と過ごす時間を確保したいという僕のわがままが理由だったわけだが……彼女も同じようなことを考えてくれていると知れて、少し嬉しい。
吊り上がりそうになる口角を必死に抑えて短く返事をした僕は、自分を落ち着かせるために一つ呼吸を置いてから口を開いた。
「夜ご飯も用意するから、うちで食べていってよ。ダイエット用だけど美味しいメニュー、考えてあるからさ」
「わ~い! 楽しみ~! じゃあ、あたしも作るの手伝う……あ、ちょっと待った」
いつも通りに晩ご飯を食べていくことを勧める僕の言葉に、ひよりさんが大喜びしながら立ち上がる。
そこから一緒に夕食を作ろうと提案しかけたひよりさんであったが、何かに気付くと共に顔を赤らめながら言う。
「その前にシャワー浴びさせてもらっていいかな? 思ってたよりも汗がすごくて……」
「ああ、うん。もちろんだよ。シャワーだけじゃなくって、お風呂も沸かそうか?」
「大丈夫! 汗臭いの恥ずかしいし、できればすぐに入りたいから……!!」
そう言いつつ、ひよりさんが少し僕から距離を取る。
本気で恥ずかしがっている彼女の気持ちを察した僕は、了解と視線で伝えると共にお風呂場に向かうよう促す。
「お先にどうぞ。次は僕も浴びさせてもらうね」
「うん、ありがとう! ……なんかあれだね。シャワー、先に浴びてきなよ感があって、ちょっとえっちぃね!」
「えっちじゃないです。そんなこと言ってる暇があるなら、僕が先に入っちゃおうかな~?」
「わわわっ! ダメダメ!! 汗臭いまんまでいたら、乙女の尊厳が失われちゃうって!!」
苦笑を浮かべつつひよりさんの言葉にツッコミを入れ、煽るように言えば、彼女は慌てた様子で我が家に置いてある着替えボックスを漁り始めた。
こういう時にも役に立つな~と思う中、振り返ったひよりさんが一言残してから風呂場へと向かっていく。
「じゃあ、先にシャワー浴びてくるね……ちょっとだけ待っててね、雄介くん……♥」
「……ひよりさん、わざといやらしい感じで言ってない?」
「えっち感を出してみました! じゃあ、失礼します!!」
どこまでもひよりさんはひよりさんだなと思いながら、そういうところが好きでもある僕は彼女のからかいに笑みを浮かべながらツッコミを入れた。
そのまま駆け足で風呂場へと向かったひよりさんを見送った後、筋トレに使ったヨガマットを片付けていく。
「一応、お風呂も沸かしておくね。ひよりさんが出る方が早いだろうけどさ」
「オッケー! なら、ご飯食べ終わった後にもう一度しっかりお風呂入っちゃおうかな……? あっ、今日、お父さんもお母さんも遅くなるっぽいし、雄介くんちに泊まっていってもいい?」
「別にいいよ。母さんもダメとは言わないと思うしさ」
「や~りぃ! じゃあ、今夜は雅人くんと大我くんと一緒にゲームで勝負ね!!」
「しっかりとした生活習慣を身につけないと太るよ」
「ぐぇぇ!」
何枚かの扉と壁越しに大声でそんな会話を繰り広げていた僕の耳に、風呂場のドアが閉じる音が響く。
続いて聞こえてきたシャワーの流れる音を耳にしながら、僕は軽く息を吐いた。