ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
そう、ひよりさんがからからと笑いながら言う。
実際に彼女は本当に気にしていないのだろうが、僕の方は恥ずかしさと気まずさに顔が真っ赤になったままだ。
笑うひよりさんの声を聞き続けていた僕であったが、ふぅと息を吐いた彼女は懐かし気な声でこう言ってきた。
「なんか、初めてのお泊りを思い出すね。あの時も雄介くん、あたしの下着を見て、わたわたしてた」
「まあ、うん……そりゃあ、そうなるでしょ」
「あははははっ! うん、そうだよね! でも、今になってもその反応はいただけないんじゃないかな~?」
曇りガラスに阻まれてひよりさんの姿は見えないが、僕には今の彼女がどんな顔をしているのかがわかる。
僕をからかって楽しんでいる笑みを浮かべているであろう彼女は、ふんふんと鼻を鳴らしてから話を続けていく。
「あの頃はまだ友達だったけどさ、今はもう恋人だよ? 付き合って結構な時間が経ったし……そろそろ、慣れてもいい頃じゃない?」
「う、う~ん……」
ひよりさんの言う通り、夏に入る前に付き合い始めた僕たちは、恋人という関係で数か月の時間を過ごした。
前にも少し話したが、
(水着姿もパジャマ姿も見てるわけだしな……今さら下着で慌てる方が変なのか……?)
文化祭の日、「手を出してほしい」とひよりさんから言われたことを思い返した僕が一人思い悩む。
ひよりさんは色々と覚悟を決めたり、迷いを振り切ったりしてあの発言をしたかと思うと、僕の方が不誠実なのではないかという気分になってしまう。
彼女の裸や放置された下着を見て、一切動揺しない自分というものは想像できないが……慌てて目を逸らすような男のままではいけないという気持ちもある。
これからもひよりさんと一緒に進んでいくと決めたのなら、いずれは訪れるその日に備えて覚悟を固めておかないとと考えた僕は、深呼吸をしてから言った。
「ひよりさんの言うことも一理あるね。ちょっとずつ、慣れていく努力をするよ」
「ほほう? それじゃあ、その第一歩といきますか!」
嬉しそうに声を弾ませたひよりさんが、その言葉と共に少しだけ風呂場のドアを開く。
突然の行動にドキッとしてしまう僕の前で開けたドアから顔を覗かせた彼女は、そこから片腕を伸ばすと共に笑顔で僕へと言う。
「ボディソープ、ちょ~だいな!」
「あ、ああ……! そ、そうだったね……!」
そういえば、そんな理由で僕は呼び出されたんじゃないかと思いつつ、手にしているボディソープを見やる。
そこから笑顔の彼女と、こちらへと伸ばされる腕を見た僕は、シャワーを浴びているせいかどこか艶めかしいひよりさんの雰囲気に息を飲む。
僕たちを隔てていた薄い壁は存在しているが、完全に隔絶された状態からわずかではあるがお互いの姿が見える状態になっている。
濡れた肌と髪にピンク色に染まっている頬。シャワー中という家族以外は見たことがないであろうひよりさんの姿を一部ながらも目にして緊張する僕へと、彼女はさらに腕を伸ばしながら口を開く。
「ほら、早く~! このままだとあたし、風邪ひいちゃうよ~?」
からかうようにそう言いながらも、本気で急かしているようには見えないひよりさんの笑顔に僕は少しだけ落ち着きを取り戻す。
普段通りの彼女だなと思いながら持っていたボディソープを渡そうとしたのだが……そこで僕は、とあるものを目にして、固まってしまった。
「っっ……!?」
曇りガラスに阻まれて見えないひよりさんの体。その一部が今、ドアに想いきり押し付けられている。
彼女が僕に向かって思い切り手を伸ばしているが故に、重心がやや前にかかっているために、その部分が強くガラスに押し付けられているのだ。
シルエットにはなっているが、ガラスに押し付けられている
ついうっかり目にしてしまったばっかりに視線を奪われてしまった僕であったが、はっとすると共に大慌てでひよりさんへとボディソープを差し出す。
「こっ、これ! 悪いけど、詰め替えはそっちでお願い!!」
「はいはい! りょうか~い!」
あっけらかんとした様子で返事をしたひよりさんが、バタンとドアを閉じる。
今のあれはわざとなのか、それとも偶然なのかはわからないが……間違いなく、僕が何を見ていたのかはバレているだろう。
恥ずかしさと共に申し訳なさがこみ上げてきたが、口から出そうになった謝罪の言葉を僕は必死に飲み込んだ。
これでいい、これでいいのだ……お互いに悪気がない、所謂ラッキースケベというものであったのならば、恋人という関係にある僕たちはそのことを後ろめたく思ったりしなくていい。
僕は見たくないものを見せられたわけじゃないし、ひよりさんも見られたくないのに見られたわけじゃあない。
だったら、謝罪の言葉なんて必要ないはずだ。
「じゃあ、僕はリビングに戻るね。また何かあったら遠慮せずに声をかけてよ」
「うん! ありがとね、雄介くん!」
そう、ひよりさんに声をかけてから、僕はリビングに戻っていく。
改めて、彼女が持つ破壊力というものを目の当たりにした僕は自分を落ち着かせるべく深呼吸をしたのだが……その際、ふとこんなことを思ってしまった。
(曇りガラスに押し付けられたのがお尻だったら、僕は耐えられたのかなぁ……?)
別にこの疑問に深い意味はない。胸の谷間だとかは水着のお披露目会なんかでよく目にしていたから、多少の免疫ができている。
逆に露出度が高いお尻というか、下半身をまじまじと見る機会なんてほとんどなかったわけだから、そっちの方が危なかったんじゃないかと考えただけだ。
僕が尻フェチだからだとか、そういうことじゃない。そもそも僕はお尻が好きなわけじゃないから、そう呼ばれることの方がおかしいのだ。
いやまあひよりさんのお尻が魅力的だというのは間違いないが、そんなの大好きな彼女の全てが魅力的に映るものなのだから当たり前の話だろう。
だからやっぱり僕がおかしいわけじゃ……というところまで考えて、僕は思考を止める。
(いつかは曇りガラスに隠されていた部分も見ることになるんだよな……)
そうぼんやりと思いながら、この気持ちをどう受け止めるべきかもちゃんと考えておかないとなと結論付けた僕は、リビングの天井を見上げながらごろりと寝転がり、深い息を吐くのであった。