ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんと僕と秋の夜

「よ~るのお散歩楽しいな~っと! 涼しくなってきたし、歩くにはちょうどいい時期だよね!」

 

「そうだね。夏は夜も暑いし、今くらいの時期が夜に出歩くにはちょうどいいかもね」

 

 ご飯を食べた後、僕はひよりさんと一緒に夜の散歩に出かけていた。

 ダイエットの一環であるこれは、同時に僕たちがのんびり二人で話せる時間でもあり、楽しみにしている時間でもある。

 

 痩せるという目的は達したが、リバウンドも警戒しているひよりさんはこの日課をもうしばらく続けるつもりのようだ。

 僕も彼女のボディガード役として一緒にいられるし、こうして付き合うことに何の文句もない。

 

「ふぅ……こっちに引っ越してきて、まだ一か月とか二か月くらいだけど……結構、道とか見慣れてきたね。もうちょっとしたら完全に慣れると思う」

 

「夏休みの終わりに引っ越してきたから、確かにそのくらいか。なんか、まだそれくらいしか経ってないとは思えないな……」

 

「雄介くんとはずっと一緒にいるからじゃない? その分、思い出がいっぱいできるってことだしさ!」

 

 とんっ、とんっと弾むような足取りで歩きながらのひよりさんの言葉に、僕もなるほどと納得する。

 思えば、僕の家の近所に彼女が引っ越してきてから、数え切れないくらいの出来事があったなと振り返る僕へと、ひよりさんがその思い出たちを数え始めた。

 

「え~っと……たこ焼き屋さんでのお酒事件に、大阪旅行でしょ? 文化祭準備でてんやわんやだったし、遊佐くんと優希が気まずくなった時に間に入ったのもそうだし……」

 

「文化祭もたこ焼き屋をやったり、二人で色々見て回ったりしたもんね。あとは後夜祭もか」

 

「実質、夏休みからず~っと一緒にいるんだもん。そりゃあ、濃い思い出がいっぱいできますよ!」

 

 おどけたようにそう言ったひよりさんへと、笑みを向けながら頷く。

 ほんの数か月だけど、本当にたくさんの思い出があるな……と僕が考える中、ひよりさんが話を続けていった。

 

「あとはこのダイエットもそうだしね! いや~! 雄介くんと一緒だと、普通の日常も楽しい出来事に早変わりだ!」

 

「ふふっ……! そう言ってもらえて嬉しいよ。僕も、ひよりさんと一緒だと毎日が楽しいしさ」

 

「えへへ~……! いいね、こういうの。お互いの存在に感謝しながら毎日を過ごせるの、なんか素敵だ」

 

 ちょっと夫婦っぽいなと、ひよりさんの言葉を聞いた僕はそう思う。

 彼女も同じことを考えたのか、頬をほんのりと赤く染めながら照れくさそうな笑みを浮かべていた。

 

「……出会ってから半年か。なんか、激動の毎日って感じかもね」

 

「あははははっ! そっか! 雄介くんとお話ししたの、四月だもんね! それから半年とちょっと経ってるのか!」

 

「出会ってからは半年で、ご近所さんになってからは一、二か月くらい。それで……恋人になってからは四か月くらいかな?」

 

「え~っ!? まだそんなだっけ? あたしたち、もう一年くらい付き合ってなかった?」

 

 ひよりさんの言葉に、思わず同意しそうになってしまう。

 彼女の言う通り、僕たちが出会ってからまだ半年程度しか経っていないとは思えない。もう一年くらい付き合っている気がする。

 

 楽しい時間は早く過ぎるというが、僕たちはその逆だ。

 ゆっくり、のんびりと時間が過ぎていて、その中を二人で歩き続けている感覚がある。

 

 それが悪いことだとは微塵も思わない。むしろ、長い時間を一緒に楽しめるのだから、幸せだと思う。

 これからもこんなふうに一緒に時を過ごせていけたらいいな……と考える僕の耳に、かわいらしいくしゃみの音が響いた。

 

「へくちっ! うぅ、ちょっと寒くなってきたかも……」

 

「もうそろそろ冬だしね。風が冷たくなって当然か」

 

 そう言いながら、僕はひよりさんへと手を差し伸べる。

 嬉しそうに笑った彼女は嬉々とした表情でその手を取ると、指と指を絡ませるように握り締めてくれた。

 

「これでちょっとは温かくなったかな?」

 

「ううん! ちょっとじゃなくてすっごく温かくなったよ!」

 

 笑顔でそう言ってくれるひよりさんの手を、優しく包み込む。

 風邪をひく前に帰ろうかなと思いながら夜空を見上げた僕は、そこに浮かぶ満月を見つめながら小さな声で呟いた。

 

「……月が綺麗だね」

 

「ん? ……ふふっ! そうだね、綺麗なお月さまだ」

 

 別にその言葉に特別な意味を込めたわけじゃないけど……彼女が喜んでくれたなら、そう受け取られても別に構わない。

 僕の手を握る小さな手に、少しだけ力が込められたことを感じながら……僕は、手の中の温もりを確かめるようにその手を握り返すのであった。

 

 

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