ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「楽人」
「おう、雄介か」
昼休み、屋上で一人パンを齧っていた楽人に声をかけた僕は、そのまま彼の隣に座った。
しばしの沈黙が流れた後、僕は話を切り出す。
「聞いたよ、バスケ部のこと。活動停止になったんだって?」
「ああ、まあな……」
僕の言葉に苦笑か、あるいは自嘲気味な笑みを浮かべた楽人が頷く。
ペットボトルに半分ほど残っていたお茶を一気に飲み干した彼は、それで弾みをつけてから僕へと言う。
「言っとくけど、お前や七瀬さんが気にする必要なんてねえからな? 文化祭のあれが原因ってわけじゃあねえんだからよ」
「……あの後、何かあったの?」
「あの後っていうか、前々からやらかしてたっていうか……」
はぁ~、と盛大なため息を吐いた楽人は、もう笑うしかないといった様子で詳細を語り始めた。
「文化祭で紫村さんと部長たちが起こした騒ぎ、当然だけど結構な人たちに見られてたからさ……あれをきっかけに、学校外から結構な苦情が入り始めたらしいんだ。そしたらまあ、部員のやらかしが出るわ出るわって感じでさ……」
「やらかしって……活動停止になるくらいのことをやってたの?」
「まあな。
「でもそれは楽人たちが何かしたわけじゃないだろ? 大半は紫村と、取り巻きの先輩がやったことじゃないのか?」
「連帯責任ってやつだよ。そもそも、最初のやらかしに部長ががっつり関わってんだから、他の部員たちがどうこうって話でもないみたいだ」
そう言って、楽人は肩を竦めて力なく笑った。
彼は気にするなと言っていたが……やはり、文化祭での事件はバスケ部の活動停止処分に大きく関わっていたのだと理解する僕へと、楽人が言う。
「もう一度言うけど、お前や七瀬さんが気にする必要はないからな。あの一件は完全にこっちが被害者で、俺たちの対応は間違ってなかった。誰もが取る、普通の行動をして……その結果、間違ってた奴らが罰を受けたってだけの話なんだからよ」
「楽人……」
あくまで僕たちを気遣ってくれる友人の言葉に、胸が痛くなる。
紫村がいちゃもんをつけてきたのは、僕とひよりさんがいたからだ。逆恨みだとしても、彼女の行動の根幹には僕たちへの嫌がらせという目的があった。
何一つとして恥じるようなことはしていないが、それでも親友がこうして大きな被害を受ける結果に繋がってしまったことに心苦しさを感じる中、楽人が小さくため息を吐いた。
「悪い、気が滅入るかもしれねえけど、ちょっと愚痴を聞いてもらえるか?」
「……僕で良ければ、いくらでも」
「サンキュー」
こういうふうに弱音を吐けるのも、僕が男で、バスケ経験者だからなのだろう。
やっぱり僕一人で話をしに来て良かったと思う中、少しだけ嬉しそうに笑った楽人が話を始める。
「やっぱあれだな、もうちょい紫村さんを警戒しとくべきだったわ。江間がおかしくなったのもあの子が原因だし……あれか? これが噂のサークルクラッシャーってやつか?」
「かもね。でも、楽人一人だけが警戒してもどうしようもなかったと思うよ。紫村はバスケ部の中心である部長や先輩たちにもすり寄ってたわけだしさ」
「だよな……本性を知ってる俺からすれば、あっさり騙されやがってってなるんだけどさ、無警戒だとやっぱかわいい子にしか見えねえもんな。そりゃあ、コロッといっちまうよ」
楽人が言うように、紫村は外見はかわいいし、その武器を自覚して、上手く活用する方法を熟知している。
ひよりさんから江間を奪い取ったこともそうだが、周囲を味方に付ける術を理解している感じだ。
完全に手慣れている彼女のやり口は恐ろしいの一言で、無警戒だとあっさりと篭絡されてしまってもおかしくない。
間違いなく、楽人が彼女の本性に気が付いた時にはもう手遅れだったのだろう。
部長をはじめとした中心メンバーは紫村にぞっこんになり、彼女の手駒に成り下がってしまった。
数々の迷惑行為にも彼女が関わっている気しかしない僕が、楽人が言った『サークルクラッシャー』という称号が相応し過ぎる紫村の言動にげんなりとする中、彼はくしゃくしゃと食べていたパンの袋を丸めると共に口を開く。
「これからどうなるんだろうな……? 信用回復のために動くべきなんだろうけど、やらかした部長とか先輩たちは完全に意気消沈して動く気配がないし……巻き込まれた連中もそんな状況でモチベが上がるわけがないから、誰も何もしようとしねえんだよ。俺も気持ちがわかるから、無理は言えねえしさ……」
ここに関しては、僕も予想していた。
江間の離脱から始まり、バスケ部内には嫌な空気が蔓延していたのだろう。それが今回の活動停止処分を契機に、大爆発を起こしてしまった。
元凶である部長たちが責任を取る姿勢を見せなければ、そんな彼らを見ている巻き込まれ損のメンバーのモチベーションが上がるわけもない。
今、バスケ部が空中分解しかかっていることに心を痛めている親友の姿を目にした僕は、一つ間を空けてからこう話を切り出す。
「楽人、一つ提案があるんだけど、聞いてもらえる?」