ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「あー! もうっ! どうして私がこんな目に……!?」
近頃の私は本当にツイてない。思った通りに事が進まないし、悪いことばかり起きる。
特に文化祭の一件から、『クレーマーメイド』なんていう頭にくるあだ名を付けられてしまった私は、クラスでも浮いた存在として見られるようになっていた。
「なんでこんなことになってんのよ……!? 私はただ、私をコケにした連中を懲らしめようとしただけじゃない……!!」
私に男を奪われて不幸になっていなくちゃいけないのに幸せそうにしている七瀬と、あいつの彼氏になった上に私に一切興味がないみたいな目で見てきた尾上。
他にも私に靡かない遊佐とか、私を苛立たせるあいつらのグループにちょっと痛い目を見せてやろうとしただけだったのに……どうしてこうなった?
使えると思って利用してきたバスケ部のキャプテンや先輩たちもちょっと顔が怖い男子に脅されたら何も言えなくなってたし、本当に役に立たない。
そのキャプテンたちも私を取り合って色々騒動を起こしていたせいで部活自体が活動停止処分を喰らってしまい、処分の元凶として完全に意気消沈している。
私にも悪いうわさが立ってしまったし、同じバスケ部のマネージャーからは今まで以上に敵意を向けられるようになったし、これまでやってきたことの一部が出回ってしまったことで周囲から警戒されるようになったし……もう散々だ。
まあ、江間にやったみたいに彼女持ちの男にちょっかいをかけて奪ってきたみたいな致命的な悪事に関しては出回っていないから、まだよしとしよう。
(本当にムカつく……! まだストーカー被害も続いてるっていうのに……っ!!)
周囲から孤立しつつある私のことを、ありがたくない形で見守っている人間がいる。
どこの誰かもわからない、ストーカー……何かをされたわけではないが、確かに私は視線と気配を感じているのだ。
今までは私を庇う男どもがいたか、あるいは友達と一緒だったから一応は安心できた。
だが、一軍女子の立場もバスケ部の姫としての立場も失った今、私の周りには誰もいない。当然、一人で行動することも多くなる。
その分、ストーカーの不気味な気配を感じることも多くなって……それが私の苛立ちを加速させていた。
(誰に何を言っても信じてもらえないし、守ってくれる奴もいない……! どうして私がこんな目に遭うのよ……!?)
本当に苦しんでいる時に手を差し伸べてくれる連中がいないことに苛立ちながら、同時に私と似たような状況に陥ったはずの七瀬が楽しそうに毎日を過ごしていることにも苛立ちを募らせる。
あいつが浮気されてべこべこに凹んでいる時、妙な男に引っ掛かってくれることを期待していたし、そうなったと思っていたのだが……尾上は、私が期待していたような男ではなかった。
顔は平凡。部活にも所属していないから顔も広くない。ステータスは並で、私が一切目を向けたことのない男。
そんな男にあっさりフラれたことに腹が立つし、私を袖にした男が七瀬を何よりも大切にしていることがもっとムカつく。
私の計画が狂ったのは大体があいつのせいだと思いながら、同時に七瀬の周りにいる連中にも苛立ちを覚える。
仲の良い親友とか、彼氏の友達とか、クラスの連中とか……あいつに何かがあった時に一丸となって守る姿勢を見せるモブたちが、本当に邪魔で邪魔で仕方がなかった。
(本当にムカつく! 私は今、一人で悩んでるっていうのに、あいつらは……!!)
自分が置かれた境遇と七瀬の今の状況に大き過ぎる差を感じた私は、一瞬覚えてしまった惨めさを振り払うように近くにあったクッションを放り投げた。
悔しさに息が荒くなる中、手元に置いてあったスマートフォンの画面が光る。
(部長から? 何よ、こんな時に……!?)
画面に表示されたバスケ部のキャプテンの名前を見て、小さく舌打ちを鳴らす。
無視することも考えたが、一応出てやるかと考えた私は、咳払いをしてからスマホを耳に当てた。
「もしもし、紫村ですけど……?」
「あ、ああ、二奈ちゃん? 今、大丈夫かな……?」
少しおどおどとした態度のキャプテンの声に苛立ちを覚えながら、それを必死に堪える。
デートの誘いとかだったら普通に断ろうと考える私へと、キャプテンは意を決したように話を切り出した。
「あのさ……遊佐から連絡、きた?」
「遊佐くんから? どういうことです?」
「いや、その……なんかあいつ、プレデターズバッシュとかいうバスケの市民バスケ大会に出るつもりらしくてさ。参加しないかって、連絡があって……」
「はぁ……!?」
キャプテンの話を聞いた私は、抑えていた苛立ちをわずかに滲み出させながら怒りの声を漏らす。
私にはそんな誘いの連絡はきていない。一緒に騒ぎを起こし、元凶と呼ばれている部長にすら誘いがあったのに、私にはなかった。
ということはつまり……遊佐は完全に私を排除するつもりなのだろう。
あのチビから要らない存在と烙印を押されたことにムカつきが止まらなくなる私の雰囲気を察したのか、部長が慌てて言う。
「だ、大丈夫だよ! 二奈ちゃんを仲間外れにするような真似、俺はしないから! ちゃんと断ったし、一緒に活動再開していく方法を考えていこうよ! ねっ!?」
こいつがそうだということは、二年の部員たちも同じように断っただろう。
だが、こんな連中に哀れまれているという状況に屈辱を覚えた私は、スマホを握る手に力を籠め、悔しさに全身を震わせるのであった。