ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「バットにグローブ、野球ボール……ここは野球エリアで、あっちはサッカーか~……テニスとかバレーの道具も売ってるし、改めて見ると本当に品揃えがいいよね」
「この周辺だと一番大きな店だもんね。普段はバスケのゾーンしか見てなかったから、こうして見て回ると新鮮で面白いや」
ひよりさんの言う通り、店の中には様々なスポーツで使う道具が並べられている。
スポーツウェアやシューズなんかも含めれば、その数はすごいことになっていそうだ。
結構な回数訪れたと思っていた店だが、こうしてみるとそんなことはなかったんだなと思う。
そうやって新鮮な気持ちで色んなスポーツ用品を見て回っていた僕たちであったが、何かを見つけたひよりさんが驚いた様子で声を漏らした。
「あっ、懐かしい~! これ、前に買いに来たな~!」
そう言ってひよりさんが近付いたのは、部活で使うウォータージャグだ。
練習の休憩時に飲む水を入れておくためのそれは、確かにマネージャーをしていたひよりさんからすると縁の深い物だろう。
「あたしが二年生の時だったかな? バスケ部に新入部員が結構入ってきてさ、一個だけじゃ足りなくなっちゃったんだよね。それで、急遽追加で買うことになってさ」
「そうだったんだ。僕も結構、こいつにはお世話になったかな」
夏の時期は特に水分補給が必要になるし、それだと事前に準備してきた飲み物だけじゃ足りなくなる。
マネージャーさんたちが用意してくれるウォータージャグには本当に助けられたなと思う僕へと、ひよりさんが言う。
「でも、流石に今回は必要ないよね? 持ち運びも大変だしさ」
「そうだね。個人で水筒を持ってくるだけで十分だよ」
安いものだと五千円もあれば買えてしまうウォータージャグだが、流石に一か月少しの練習期間のために買う物ではない。
そもそも、練習場に持ち運ぶのもいちいち手間だし、それだったら僕たちが個々で水筒を持ってくる形の方が最適のはずだ。
「それだったら……必要なのはこれじゃない?」
中学時代の思い出に花を咲かせてくれたウォータージャグに別れを告げたひよりさんが、そのすぐ近くにあったものをぺんぺんと叩く。
粉末のスポーツドリンクがぎっしり詰まった箱を叩く彼女は、そこからこう言葉を続けた。
「これだったら持ち運びも楽だし、水道があればすぐに補充できるもんね。運動する時は、ただの水よりスポドリの方がずっといいだろうしさ」
確かに、とひよりさんの意見に同意た僕が大きく頷く。
個人で持ってきた水筒が空になったとしても、これがあればすぐにスポーツドリンクを補充できる。
ペットボトルに入った状態よりもずっと軽いし、値段に関してもお得だなと感心した僕は、ひよりさんへと言った。
「流石は元マネージャー、知識が豊富だね」
「でっしょ~? 伊達に二年とちょっと、バスケ部のマネージャーやってきてないって!」
えっへん、と胸を張るひよりさんの言葉に僕が笑みを浮かべる中、彼女は自分の買い物かごにぽいぽいとスポーツドリンクを放り込んだ。
「こいつはあたしからの激励ってことで! 雄介くんや遊佐くんに気合い入れてもらわないとね!」
「あはは……! 頑張ります」
人を乗せるのが上手いというか、発破をかけるのは上手というか……ひよりさんは、こういうのが得意みたいだ。
きっと中学時代もバスケ部のみんなから頼りにされてたんだろうなと思わせる彼女の言動に僕は思わず感心してしまう。
「ありがとう。ひよりさんの期待に応えられるよう、一生懸命頑張るよ」
「うん! でも、まずは楽しむことを優先してね!」
僕がひよりさんに改めて感謝を伝えれば、弾けるような笑みを浮かべながらそう返してくれた。
前々から思っていたが、ひよりさんって包容力があるよな……と考えつつ、僕は彼女に言う。
「じゃあ、そろそろお目当てのものを見に行こうか。ちょうど売り場も近いみたいだしさ」
「そうだね。結局、練習に必要な物ばっかり見ちゃってたな~……!」
店の中はある程度見て回ったし、買わない物をべたべたと触るのも良くないだろう。
スポーツウェア売り場も近いことだし、本来の目的を達成してしまおうという僕の言葉に頷いてくれたひよりさんと共に、僕は移動していく。
その際、スポーツドリンクの箱が入った買い物かごを彼女の手から受け取れば、ひよりさんは小さく微笑んでこう言ってくれた。
「ありがと。雄介くん、さり気なく気を遣ってくれるよね」
女の子に荷物を持たせるのは悪いと思ってのことだったので、これくらいは普通だと思うのだが……恋人に褒められて悪い気になる男なんていない。
緩みそうになる頬を押さえてスポーツウェア売り場へと向かった僕は、そこでひよりさんと一緒にシャツとバスケットパンツを物色していった。