ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「う~ん、まずは通気性が良いのがほしいよな~……三着くらいあれば問題ないだろうし、そのくらいで見るか……」
体にぴっちり張り付くようなシャツは苦手なので、ある程度サイズに余裕があるシャツがいい。
バスケットパンツの方も似たような感じの物がほしいなと思いつつ、お値段控えめな衣類を探して棚を物色する僕へと、ひよりさんが言う。
「デザインは? 色とか柄とか、そこは気にしないの?」
「あんまりかな? どっちかっていうとシンプルなやつの方が好きだし……」
そこを重視する人も大勢いるのだろうが、僕はそこまで気にしない。
派手な服は苦手だし、そういうシャツは結構高かったりするので、シンプルな無地のシャツを選びがちだ。
中学時代からそんな感じだったよな……と、自分のおしゃれへの無頓着さを再認識した僕が微妙にどうなんだと思う中、ひよりさんが並んでいるシャツの中から一枚を取り出し、それを見せつけてきた。
「でもほら! これ、雄介くんの好きな選手が所属してたチームでしょ? 名前、ポスターで見たしさ!」
「ああ、そうだね……へぇ、こんなのもあるんだ……!」
ひよりさんが見せてきたのは、NBAチームとコラボして制作されたTシャツ……その中でも、僕が敬愛する『The Big Fundamental』が所属していたチームとのコラボシャツだ。
胸元にチームのロゴが入っている他、ユニフォームを踏襲したカラーリングになっているそれは、黒と白の二色でまとめられたシンプルな格好良さがあった。
「はい! こちらは背番号二十一がプリントされたTシャツになりま~す! 雄介くん、この人が好きなんだよね!?」
「うっわっ! ちゃんと用意されてるんだ!? いや、永久欠番になるくらいのレジェンドだし、人気自体もすごいからあって当然っちゃ当然だけど、もう十五年近く前に引退した人のグッズが作られるって、やっぱすごいな……!!」
続いてひよりさんが見せてくれたシャツを見た僕は、思わず興奮しながらそのシャツをまじまじと観察してしまった。
黒地に白で『21』の番号がプリントされている他、この番号を背負ってプレイしていた当時の写真がプリントされているものもあって、未だにNBA史上最高のパワーフォワードと呼ばれていたこの選手の人気が窺えるこのシャツは、久々にバスケットをする僕からしても素晴らしいと思える物だ。
アイコンユニフォームをモチーフとした黒地のシャツとアソシエーションモデルの白いシャツ。
そこに加えて『The Big Fundamental』の写真がプリントされた三着でちょうど、欲しかった枚数分だな……と考えつつ、僕は値段を確認する。
やはりというべきか、こういうコラボ商品というのは往々にしてお値段がお高めで、予算的には大丈夫だが少し悩む金額になっていた。
(どうする……? このシャツ買ったら、絶対にパンツもコラボグッズで揃えたくなっちゃうよな……? そうなるとお値段が半端ないことになるぞ……!!)
今後、運動をするかもしれないが、それでも基本はここから一か月程度の期間しか使わないシャツに、この値段。
流石にもったいない気しかしないのだが、やっぱり欲しいものは欲しいし……と僕が唸りながら悩む中、楽しそうに笑ったひよりさんが言う。
「あははははっ! 雄介くん、本当にこの選手のことが好きなんだね~? 雄介くんがここまで悩むの、超珍しいじゃん!」
ひよりさんの言う通りで、基本的に僕は買い物で悩んだりしない。
強いて言うならばひよりさんに贈ったヘアゴムや彼女が着る水着を選んだ時だろうかと考えたが、それはプレゼントだから除外すべきだろう。
純然たる自分のための買い物という形では、ここまで悩むのは初めてかもしれないなと思う僕へと、ひよりさんがこう続ける。
「そこまで悩むんだったら買っちゃいなよ! 予算的には問題ないんでしょ?」
「そうなんだけど、結構ギリギリでさ……」
「別にいいじゃん! この一か月、どうせなら思いっきり楽しんじゃおうよ! そんな何十万もする買い物じゃないんだし、思い出作りの一環って考えればいいんじゃない?」
「……そうだね。ひよりさんの言う通りだ」
どうせなら、思いきって飛び込んでしまった方がいい。バスケの練習もその準備も、全力で楽しまなくちゃ損だ。
若干、悪魔の囁きに負けたような気がしなくもないが……ひよりさんの甘い囁きに乗って、奮発してしまおうではないか。
というわけでシャツとバスケットパンツを買い物かごの中に入れたところで、くすくすと笑ったひよりさんが面白おかしい雰囲気を出しながら口を開く。
「いや~、それにしてもまさかビッグファンダメンタルさんがここまで雄介くんを迷わせるだなんてな~! もしかしてあれかな? あたしの最大のライバルは女の子じゃなくて、背番号二十一のこの人だったりする?」
「いや、それはないかな。今も結構悩んだけど、ひよりさんのヘアゴムとか水着を選んだ時の方がずっと悩んだから、ひよりさんの方が上だね」
「あははっ! そうだったか~! じゃあ、また思いっきり悩んでもらおうかな?」
僕の言葉に、にま~っと笑ったひよりさんが女性用スポーツウェア売り場を指差す。
何を頼まれるか既に理解していた僕は、若干の緊張を覚えながら彼女と共にそこに並ぶ服を見ていった。