ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ど、どのスポーツって言われたって……」
いたずらっ子なひよりさんのいつも通りのからかいだが、毎回の如く僕は真剣に悩んでしまう。
無論、大好きな彼女の一風変わった姿を見てみたいという欲望も健全な男子高校生である僕にはあるわけで……そういったことも手伝って、僕が先の質問に対する答えを思案し始める中、ニヤニヤと笑いながらひよりさんが口を開いた。
「やっぱ王道の水泳部とか? でも、スク水姿なら授業で見れるか~。競泳水着ってスク水と違うのかな?」
「さ、さあ……? 僕にはよくわからないし……」
「じゃあ、スコートがちょっとえっちなテニスとか? そっちも人気だよね~!」
「人気、なのかなぁ……? スコートが捲れることを期待してジロジロ見てる男子がいたら、普通に通報されそうだけど……?」
「むぅ……! あたしの意見を否定ばっかりして~! じゃあ、雄介くんはどんなスポーツをしてる女の子が好きなのさ!?」
「えぇ……?」
競泳水着姿のひよりさんとか、スコートをはためかせながらテニスに興じるひよりさんとか、色々な彼女の姿を想像したことは認めるが、この反応は若干理不尽じゃないだろうか?
とは思いつつも、自分の意見を言わないと納得しなさそうなひよりさんの表情を見た僕は、頬を掻きながらその答えを述べる。
「僕は……バスケをやってもらいたいかな? ユニフォーム姿を見たいとかじゃなくって、ただ純粋にひよりさんとバスケの話をしたいだけなんだけどさ」
「ふ~ん……なるほど。なんか、実に雄介くんっぽい答えって感じ」
それは褒めてくれているんだろうかと、ひよりさんの言葉に少し不安を抱く。
ただ、彼女はどこか満足気な表情を浮かべていて、決して悪い意味で言ったわけじゃないと理解した僕はほっと胸を撫で下ろした。
「まあ、雄介くんがスケベ心を全開にして答えるとは思ってなかったしね! ピュアピュアな答えでいいと思うよ!」
「……なんか、それはそれで馬鹿にされてるみたいで嫌だな……」
「にししっ! ちゃ~んと褒めてるよ! 気にしない、気にしない!」
笑って僕を煙に巻いた後、ひよりさんがバスパンを手に取る。
それを見つめた彼女は、しみじみとした雰囲気で言った。
「あたしももうちょっと背が高かったり、運動が得意だったりしたら……マネージャーじゃなくて、選手として部活に参加してたりしたのかもしれないね。別に、マネージャーが嫌だったってわけじゃないけど、そういう道もあったのかな~って……」
「かもね。でも、スポーツを始めるのに必要なのは、恵まれた体格とか運動神経じゃあないよ。ただ純粋に、そのスポーツをしてみたいって気持ちがあれば、十分さ」
小学生の頃に読んだ、ずっと昔の漫画。
赤い髪の主人公がメキメキと実力をつけ、試合で活躍する姿に、僕は猛烈に憧れた。
そしてもう一人、海を越えた遠い国で活躍していた、伝説と呼ばれる選手。
粛々と、淡々と、心の内に秘めた炎を静かに燃え上がらせながら自分の仕事をこなし、チームを勝利に導くその姿は、とても格好良く見えた。
中学時代、憧れた二人の選手と同じポジションになれたことが嬉しくて、練習も楽しくって……無我夢中にボールに手を伸ばした日々は、今も目を閉じれば蘇ってくる。
理由なんてどうでもいい。才能は上に上がるために必要なものであって、何かを始める時に必要なのは体を突き動かす気持ちだと……そう言った僕へと、優しい笑みを浮かべたひよりさんが言う。
「そうだね。雄介くんの言う通りだ。体格とか才能って、スポーツをやらない理由にはならないもんね」
「あっ、ごめん。別にひよりさんを傷付けるつもりは……」
「大丈夫だよ! むしろ、今の話を聞いたおかげで、あたしが今、やりたいことは、雄介くんたちを全力で応援することだってわかったからさ!」
そう言って大きく腕を広げたひよりさんが、僕の背中を叩く。
小さな手だったけど、思ったよりもずっと力強いその一発で文字通り
「一緒にバスケはできないけど、気持ちを一つにすることはできるからさ! みんなで力を合わせて頑張ろうね!」
「……うん。一緒に頑張ろう!」
気合いを入れたひよりさんの楽しそうな笑顔を見ながら、僕は大きく頷く。
同時に、彼女に憧れてもらえるような姿を見せられるように頑張ろうと……強く思うのであった。