ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「おかえりなさい。随分と早かったのね? 折角のデートなんだから、もうちょっとのんびりしてくれば良かったのに」
「ただいま。元々、夜はみんなで食べるって決めてたし、荷物を持ったままぶらぶらするのも面倒だったからさ」
「あたしも夕食作り、手伝います! おっと、その前に手洗い、うがいっと……!!」
スポーツショップでの買い物を終えた僕とひよりさんは、夕方より少し前の時刻には帰宅していた。
シャツとバスパンが入った袋をリビングに置けば、手持ち無沙汰にしていた家族たちが興味を示し、集まってくる。
「そんな買わなかったんだな。もっとたくさん買ってくると思ってた」
「部活と違って毎日集まって練習するわけじゃないし、そこまで必要ないよ。いざとなったら昔使ってた練習着もあるしさ」
「あ~、懐かしいわね~! まだ一年ちょっとしか経ってないけど、昔は雄介の練習着を洗濯して干したもんよ!」
「確かにちょっと前までこんな感じの服が常に家の中に干してあった覚えがあるわ。なんか妙に懐かしくなってきたな……」
僕にとってもそうだが、母や弟たちにとっても練習着との再会は懐かしさを感じるものであったようだ。
去年の夏までは当たり前のように家の中に干されていたそれが一時的とはいえ戻ってきたことにどこか感慨深い表情を浮かべていた母は、続いてひよりさんの方の袋を広げた。
「こっちはひよりちゃんが買った服ね。スポーツ用の服も、女の子向けだとかわいいのがあるのね~! って、あら?」
「ん? 母さん、どうかした?」
「これ、雄介用のシャツじゃない? 明らかにひよりちゃんの物にしては大きいわよね?」
そう言って母が袋から取り出したのは、確かにひよりさんが着るにしてはサイズが大きなシャツだった。
デザインも男向けっぽいし、一見すると僕が買ったシャツが間違えてひよりさんの袋に入っていたように思えるだろう。
「でも僕、そんな服なんて買ってないよ? 僕が選んだシャツは全部こっちの袋に入ってる」
「義姉さんからのプレゼントとか? いや、それだったら普通に言うよな……?」
いきなり出現した謎のシャツを覗き込みながら、僕たちは話し合う。
店側の手違いでもあったのかもしれないと徐々に不安になる僕であったが、そこでいつの間にやらリビングに来ていたひよりさんが元気な声で言った。
「ああ、大丈夫! それ、あたしが自分用に買ったシャツだから!」
「えっ!? そうなの?」
「うん! と言っても、練習とかに着ていくやつじゃあないけどさ!」
自分用に買った、というひよりさんの言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
どこからどう見てもサイズが違い過ぎると、そう思う僕たちに対して満面の笑みを浮かべた彼女は、手に取ったシャツを自分の体に当て、サイズ感を見せながら言う。
「ほら! こうしてみるとちょうどいい感じでしょ? 太腿くらいまで隠せてる!」
「まあ、そうだね……って、ひよりさん? まさかとは思うけど、僕の家でそのシャツ一枚で過ごすつもりじゃないよね?」
「安心してよ! そんなつもりはないからさ! ちゃんとパンツは履くし、雄介くんの部屋でだけ着るつもりだから!」
「何一つとして安心できないんだけど? その強引な疑似彼シャツ披露、やめてってば!!」
いい笑顔を浮かべながらのひよりさんの発言に、僕は大慌てでツッコミを入れる。
家族の前でなんてことを言うんだと思う僕であったが、母と弟たちはそんな僕へと生暖かい視線を向けてきた。
「本当にバカップルだよな~、雄介と義姉さん……!」
「お母さん、そろそろ糖尿病の検査に引っ掛かる気がしてならないわ……!」
「雄介はそういうのが好きなのか~……! 正直、ちょっと引くわ~……!」
「誤解だって! そういうんじゃないから!! そんな目で見ないでってば!!」
完全に油断しきっていたところに叩き込まれたとんでもない爆弾によって、僕はさっきから慌てっぱなしだ。
盛大なオチをつけるためにしっかりと罠を張っていたひよりさんは、そんな僕を見つめながらとても楽しそうに笑い続け、満足気に頷くのであった。