ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「「わっ……!?」」
突然の事態に驚いたのは僕だけではなく、ひよりさんも同じだったみたいだ。
染まっていた頬の赤みがさらに強まる中、僕の声に気付いた彼女は恥ずかしそうに伏し目がちに声をかけてくる。
「……見たよね?」
「あ~……うん」
「くぅぅぅ……っ! ちょっと今のは本気で恥ずかしいかも。思ってたより汗かいてた~……!」
「な、なんか、ごめん。偶々とはいえ、あんまり見るべき姿じゃなかったよね……」
ウインドブレーカーの内側に閉じ込められていた蒸気が噴き出した瞬間のひよりさんの表情も含め、全てをばっちりと目撃してしまった僕もまた、言いようのない恥ずかしさを覚えながら謝罪する。
寒さが増してきたこの時期だから見える光景だよなと思いつつ、思っていたよりもえっちな雰囲気があった先ほどの光景をフラッシュバックさせる僕へと、ひよりさんが言う。
「ああ、確かに雄介くんも練習中は全身から湯気が出てたね。そう考えると、これでお相子か!」
「お相子、でいいのかな……?」
恥ずかしさを誤魔化すための発言なのだとは思うが、なんだかおかしいことを言っているとしか思えない僕は首を捻るしかなかった。
そこで改めてひよりさんを見た僕は、彼女が中途半端なところまでジッパーを下ろしているせいで、胸だけを放り出しているような格好になっていることに気付く。
さっきの光景も刺激的だったが、こっちもこっちで気になってしまう。
もしかしたら、他の男子たちも着替えを終えて片付けをしに来るかもしれない。そうなったらひよりさんの大きな胸を強調するようなこの格好が彼らの目に触れられてしまうわけで……それは僕としては避けたい事態だった。
「ひよりさん、その……ジッパー、ちゃんと下ろしなよ。その状態、結構危ない気がする」
「え? ああ! あははっ! 確かにそうだね!」
僕の指摘を受け、ひよりさんも胸が強調されていることに気付いたようだ。
最後までジッパーを下ろしてウインドブレーカーの前を開けた彼女は、照れ笑いを浮かべながら言う。
「いや~、汗の湯気だったり今の格好だったり、今日はあたしも油断しまくっちゃってるせいで恥ずかしい格好を見られまくっちゃってるな~!」
「……それ、僕だからいいけど、他の男子の前では見せないように気を付けてね」
「ん~? もしかしてそれって、あたしの恥ずかしい姿は僕だけのものだ! って感じの独占欲?」
そうに決まってるじゃないか、と視線で答えれば、ひよりさんは嬉しそうににんまりと笑ってくれた。
ちょうどそのタイミングで清掃も終わり、使ったモップを片付けた僕はにやにやと笑っているひよりさんへと言う。
「こっちは終わったし、楽人たちの手伝いに行こうか。もちろん、邪魔しないように気を付けてね」
「にっしっし~! こっそり二人の様子を見て、どうするか決めるとしますか!」
親友コンビが二人きりでどんな会話をしているか気になるし、手持ち無沙汰の状態で何もしないというのは居心地が悪い。
とりあえず、楽人たちの様子を見に行った上でどうするか決めることにした僕とひよりさんは、忘れ物がないかの最終確認をしている二人をこっそりと観察していく。
「その、今日は本当にありがとう。熊川さんが来てくれるとは思わなかったから、びっくりしちゃったよ」
「な~に~? またお礼? 何回も言わなくても大丈夫だよ! 私も結構楽しかったしさ!」
聞こえてくる会話は、楽し気な雰囲気だ。
まだ楽人は緊張している感じはあるが、熊川さんの方はリラックスした様子で彼に受け答えしている。
まあ、一度告白した相手からそういう態度を取られる楽人は複雑な心境かもしれないが、この感じからするに脈無しということはないだろう。
文化祭では保留になってしまったが、今度こそこのチャンスを掴んでほしいと僕が願う中、二人の会話は別のものに変化していく。
「そもそも私、そんな役に立てた気がしないんだけどな~。仕事もほとんどひよりに指示を出してもらってたしさ」
「そんなことないって! 俺もだけど、みんな熊川さんに感謝してるよ!」
「そう言ってもらえると安心できるかな。でも、いいよね~! こう、スポーツしてる男子たちの姿ってさ! これぞ青春! って感じがするじゃん!」
「……じれったい。ちょっとあたしいやらしい空気にしてくる!」
「ダメだよ、ひよりさん。大人しく見守ろうね」
物陰から飛び出そうとするひよりさんの口を手で塞ぎつつ、行動を制止する。
彼女の言う通り、いい雰囲気だがいまいち踏み込んでいる感じはしない二人のやり取りにはじれったさを感じるが……ここは我慢だ。
このまま会話させた方が親友の恋路は上手くいくような気がした僕が見守る中、楽人は少し迷った後で熊川さんへと言う。
「あのさ、なんで熊川さんは部活に入らなかったの? 運動神経もいいし、スポーツが嫌いってわけじゃないんでしょ?」
「え? あ~……なんていうか、飽き性だからかな? 才能がないこともわかってるから、とかでもあるかも?」
突然の質問に苦笑しながら、熊川さんが意味深な答えを返す。
どういう意味かわからずにいる僕たちへと、彼女は話を続けていった。