ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「遊佐くんの言う通り、私は結構運動神経いいけどさ……ガチでやってる人には敵わないっていうか、あくまで学校の体育の中での話っていうか、そんな感じじゃん? 上には上がいるってこと、わかっちゃってるんだよね~」
苦笑を浮かべながらの熊川さんの言葉は、どこか寂しく聞こえた。
楽人が黙って話を聞く中、彼女は言葉を続ける。
「そういうのがわかってるからさ、なんか無意味に感じちゃうのかも。上のお姉ちゃんとかお母さんがなまじ優秀だから、その差を見せつけられ続けたところもあるんだと思う。あっ! 別に家族からどうこう言われてるわけじゃなくって、私が勝手にそういう性格になっちゃったってだけだからさ!」
「……色々あるんだね、熊川さんも」
「まあね。でも、だからこそ、頑張ってる遊佐くんを見て、いいな~! って思ったりもするよ」
「えっ……!?」
楽人の心臓が跳ね上がるドキッ、という音が聞こえてきたような気がした。
目を見開く彼の反応に気付いていない様子の熊川さんは、少しだけ声を弾ませながら言う。
「今、遊佐くんたちって大変な状況なのに、バスケを楽しんでるじゃん? 勝ち負けとか成績とか気にしないで、大好きなものを楽しんでるっていうかさ……そういうの、なんか憧れて、いいな~って思うもん」
「そ、そっか。み、みんなを見て、そう思ったってわけね……」
褒められたのは自分だけではなかったという事実にがっくりと肩を落とした楽人は、そこから一つ息を吐くと熊川さんへとこう言葉を述べた。
「俺も、熊川さんの気持ちがわかる気がする。見ての通り、背が低いからさ、バスケでは不利なんだよね。今日も一年以上ブランクがある雄介に抑えられまくってたし、才能のなさを実感して、嫌になることもあるよ」
「でも、大好きだから続けられてるんでしょ?」
「それもあるけど、仲間がいるっていうのが大きいかな? 背が低い俺はリバウンド争いは苦手だけど、そこは背が高い奴がカバーしてくれる。逆に、そいつらが苦手なパスとかドリブルは俺がしてやれる。スーパーマンが一人いるチームよりも、弱点を補い合いながら戦う五人がいるチームの方が強かったりするしね。『ウチには天才はいない、だがウチが最強だ』って名台詞知らない? 俺、あの言葉好きなんだよね」
「ふふふ……! そっか! やっぱいいね、青春って感じだ!」
あせあせと焦りながら語る楽人のことを、熊川さんは微笑ましそうに見つめていた。
そんな彼女へと、恥ずかしそうに頭を掻いた後で楽人が言う。
「熊川さんも、大切な仲間の一人だよ。こうしてマネージャーとして練習を手伝ってもらってること、すっげえ感謝してる。本当にありがとう」
楽人の言葉を受けた熊川さんは、少し目を丸くして驚いた様子を見せた後……クスリと微笑んでみせた。
言葉にしなくとも伝わる感情がそこにはあって、いい感じの雰囲気の中、二人はあと少しになった後片付けを進めていく。
「おお~……! 思ったよりいい感じだったね、あの二人!」
「乱入しなくて良かったでしょ? やっぱ見守ることが一番大事だよ」
「う~ん……半分同意だけど、あと一押しが足りない気がするんだよね~……! しょうがない、ここはあたしたちが一肌脱ぎますか!」
「……
なんだかちょっとだけ嫌な予感を覚えた僕が気になった部分を復唱すれば、ひよりさんはとてもいい笑顔を浮かべながらサムズアップしてきた。
間違いなく、彼女はなにかをしようとしている……そのなにかがなんであるかを察知できない僕は、訪れるであろう受難を想像して、覚悟を決め、そして――