ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「お~い、遊佐~! 予定表できたか~?」
「今、コピーしてもらってるところだよ。もう少ししたら戻ってくるだろうから、ちょっと待ってろ」
「オッケー。んじゃ、少し駄弁っとくか~」
聞き覚えのある声と名前を耳にした私は、思わず足を止めてしまった。
昼休み、一人で昼食を取った後で七瀬たちのクラスの前を通りがかった私は、その中から聞こえてきた声に耳を澄ませる。
教室では遊佐をはじめとした数名のバスケ部員たちが集まっているようで、どこか楽しそうに話をしていた。
「この間は久々にバスケができて楽しかったな。次は今週末か? 今から待ちきれねえよ!」
「お前、練習の時はいつもダルいとかなんとか言ってるくせに、急にやる気出してんじゃん。どういう心境の変化だよ?」
「いや~、遠距離恋愛じゃねえけど、会えない時間が愛を燃え上がらせるってあるじゃん? 今、俺は、バスケと遠距離恋愛中ってわけよ!」
「なるほど、立派な恋人がいるみたいで良かったな。高校三年間はそいつと仲良く付き合い続けてやってくれ」
「あ~、それもいいかもだけど、やっぱ俺も七瀬さんみたいなかわいい彼女がほしいからな~……!」
「そのためには尾上レベルの男にならなくちゃな。お前にゃ到底無理な話だ」
「あっ、ひっでえ! そこまで言うか!?」
ぎゃはは、と男子たちの馬鹿笑いが聞こえてくる。
バスケ部の部室では見せなかったその楽し気な姿もそうだが、話の内容も私の苛立ちを煽った。
(七瀬の奴、ちやほやされやがって……! そこは私のポジションだろうが!!)
遊佐が地区の大会に参加するためにチームを組み、そこに尾上と七瀬も加わっていることは部長から聞いていた。
数はバスケ部の人数と比べれば少ないが、あのチビがちやほやされているところを見ると死ぬほど頭にくる。
どうせあの胸で男を釣っているだけなのだろうが、今の私の惨めな現状を作り出した七瀬が楽しそうにしている姿を想像すると、どうしようもなく腹が立った。
(あいつらもあいつらよ。ちょっと胸がデカいだけのチビに鼻の下伸ばして、馬鹿じゃないの……!!)
遊佐やあいつに協力してる男子にもムカつくし、何もせずにヘラヘラしているだけの部長たちにも苛立ちが治まらない。
それに尾上、あいつにもムカつかされっぱなしだと思っていたところで、私の隣を何かが通り過ぎた。
「お待たせ~! みんな、集まってたんだ?」
「練習予定表のコピー、取ってきたよ。配るから、一人一枚持って行ってね」
「ういっす~! 三人とも、サンキューな!」
「今回は紙で用意したけど、やっぱメールとかでやり取りできた方がいいよね? このメンバーでグループ作っとこうよ」
「ああ、それいいね! 急に予定が変わることもあるだろうし、そういう時用の連絡手段はあった方がいいからね」
予定表を手に教室に戻ってきた七瀬と尾上、あと……ペチャパイ女を加えた男子どもが、わいわいと一層の盛り上がりを見せて話し合う。
その姿を見ながら、私は猛烈な屈辱に襲われていた。
(なによ、あいつら……!? 私を無視しやがって……!!)
教室で待つ男子たちに早く予定表を渡そうと思っていた部分もあるのだろう、意識がそちらに向いていたということもあるとは思う。
だが……それでも、七瀬がすれ違った私に一切の興味も示さないどころか、ここに立っていることすら気付かれなかったことは、私のプライドを大いに傷付けた。
(ふざけるな……! どこまで私を惨めにするつもりなのよ……っ!?)
文字通り、眼中にないと言われたようで……怒りよりも強い悔しさが胸に込み上げてくる。
一度はあいつから彼氏を奪ってみせた私のことを、七瀬はもうどうとも思っていない。
尾上という彼氏と、遊佐みたいな仲間たちとわいわいはしゃぐ日々を楽しむことが全てだと言わんばかりの態度をまざまざと見せつけられた私は、屈辱に拳を握り締めながらその場を立ち去るしかなかった。