ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんが家に泊まるだって!?

 元気に挨拶をした後、笑いながら、話しながら箸を進めていく。

 厚切りのカルビを頬張った大我は満足気に笑みを浮かべ、雅人もまた久々の焼肉を存分に楽しんでいるようだ。

 

「う~ん! やっぱ牛肉って美味えわ! あ、雄介! 次の分も焼いといて!」

 

「はいはい、わかったよ」

 

 食べるスピードが速い弟たちのために、空になったホットプレートへと次の肉を置いていく。

 カルビやタン、ハラミなんかに加えて野菜や海鮮もバランス良く置いていけば、また部屋の中にいい香りが漂い始めた。

 

 そうやって置いた食材を適度に様子を見つつ、塩を振ったりしつつ、ひっくり返してやる。

 そうこうしている間に弟たちは最初に乗せた肉たちを食べ終え、そろそろ焼き上がりそうなホットプレートの上の食材たちへと箸を伸ばしてきた。

 

「うおおおっ! 牛タンだけは譲れねええっ!!」

 

「あっ! それは俺が狙ってた肉だぞ!?」

 

「お前らなあ……まだまだ肉はあるんだから、くだらないことで喧嘩するなって。あと、ひよりさんの分も残しておけよ?」

 

 食欲旺盛な弟たちのために次の肉をホットプレートに置いて……と、数分前と同じ行動を取り始めた僕は、そこでふとこちらを見つめるひよりさんの視線に気付いた。

 

「ああ、あの馬鹿たちのことは気にしないでいいから。好きなだけ食べちゃってよ」

 

「そういうわけにもいかないって。あたしがお肉焼くから、雄介くんも食べる側に回りなよ」

 

「いやいや、お客さんにそんなことさせられないってば。本当に気にしないで、食べて食べて」

 

「無理、気にする。ほら、トングと菜箸貸して!」

 

 そう言いながら僕の手から肉を置く道具たちを奪い取ったひよりさんが、ホットプレートの上に食材を置いていく。

 僕ほど手馴れているわけではないが、自分たちのために丁寧に食事の準備をしてくれている彼女の姿に申し訳なさを感じたのか、弟たちも騒ぐのを止めていた。

 

「ほ~ら! 見てないで、お皿の上のお肉を食べちゃいなよ! 冷めたら美味しくないよ~?」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

 そうひよりさんに促された僕が、自分用に分けた肉や野菜を食べ始める。

 ジュージューという音が響くリビングの中、珍しく食べる専門の側に回った僕が落ち着かない気持ちのままに急いで最初の肉たちを食べ終わったのとほぼ同じタイミングで、空になった皿の上に次の肉たちが降ってきた。

 

「は~い、追加だよ~ん! 体が大きいんだから、もっと食べろ食べろ~っ!」

 

「いや、流石に悪いって! 食べ終わったから今度は僕が焼くよ! ひよりさんが食べる番!」

 

「はいはい、そこまで。大人の私が焼くから、子供たちは遠慮せず食べちゃいなさいな!」

 

 これ以上、お客さんであるひよりさんに面倒な役目を任せるわけにはいかない。

 そう思った僕が彼女の手からトングたちを奪い取る前に、先に動いた母が自ら焼き係に立候補してくれた。

 

 僕は空になっているひよりさんの皿の上に今しがた彼女が僕によそってくれた肉たちを分けつつ、食事を再開する。

 

「ありがとうね、ひよりちゃん。雄介のこと、気遣ってくれて」

 

「大したことじゃありませんよ。それにあたし、こういう役目好きなんで!」

 

「そうかもしれないけど今日はゲストなんだから、遠慮せずに食べればいいのに……」

 

「そういう立場だとしても、雄介くんが自分の分を食べる暇もなくお肉を焼き続けてたら、流石に気になっちゃうって!」

 

「僕は普段、弟たちが食べ終わった後に母さんとのんびり食べるんだよ。だから、気にしなくても大丈夫」

 

「こら、雄介。折角、気を利かせてくれたひよりちゃんにそこまで言うことないでしょ? こういう時は、ありがとうでいいのよ」

 

 我が家のルールというか、普段の役割や流れを話していた僕は、母から叱責されて確かになと顔を顰めた。

 僕を気遣って焼く係を代わってくれたひよりさんに悪いことをしてしまったかなと考える僕であったが、幸いなことに彼女はそこまで気にしないでくれたようだ。

 

「う~ん、そっか。そういう感じだったんだね。あたし、むしろ雄介くんたちに気を遣わせちゃった?」

 

「い、いや! そんなことないよ! 代わってもらえて助かったし、嬉しかったしさ!」

 

「俺たちが馬鹿みたいにはしゃいでたせいなんで、七瀬さんはこれっぽっちも悪くないですから!」

 

 自分がルールを知らなかったせいで迷惑をかけたかと呟いたひよりさんへと、僕と雅人が必死のフォローをする。

 本当に彼女が気に病む必要はないのだと慌てる僕たちであったが、そんな空気の中で末っ子の大我が小さく噴き出すと共に微笑みながら口を開いた。

 

「ふはっ! なんかあれだね。同居を始めたばかりの兄夫婦に、我が家のルールを教えてるみたいな雰囲気だ」

 

「あ、兄夫婦って、お前……っ!?」

 

「ふふっ! 確かにそうかも! 申し訳ありません、お義母さま。嫁いできたばかりで右も左もわからない嫁ですが、どうぞよろしくお願いいたします……的な?」

 

「あら、いいわねぇ! ひよりちゃん、雄介になにかされたらすぐに私に言ってちょうだいね! そしたらもう遠慮なしにギッタンギッタンにしてやるから!」

 

「ひよりさんも母さんも悪乗りしないでよ! まったくもう……っ!!」

 

 大我の一言がきっかけとなって始まった茶番に、顔を赤くしながら僕がツッコむ。

 夫婦、というワードに自分が必要以上に反応していることを自覚する中、普段はノリが軽い雅人が静かな口調で僕へと言ってきた。

 

「……いいじゃん、別に。雄介も、そのくらい楽しめよ」

 

「雅人、お前なぁ――!」

 

「そのくらいの権利、兄貴にだってあるだろ。俺らのために好きだったバスケ止めて、家事引き受けたり、家計のためにバイトしたりしてさ。そんなことばっかじゃなくって、兄貴にだって青春を謳歌する権利はあるだろ。いいじゃん、高校生らしくこの間みたいに放課後デートとか楽しめよ」

 

「雅人……!」

 

 普段はふざけている雅人の口から飛び出した真面目な言葉に、僕は驚きを隠せないでいる。

 雅人もこれが自分のキャラではないとわかっているのか、らしくないとばかりに顔を背けたが……続いて、大我が口を開いた。

 

「……そうだよ。俺たちも俺たちだけど、別に兄貴に何もかもやらせなきゃダメだってわけじゃないんだからさ。七瀬さんと一緒の時くらいは、長男の立場を忘れてもいいんじゃね?」

 

 どうにもむず痒い発言だが、弟たちが僕を気遣ってくれている気持ちは伝わった。

 珍しく……本当に珍しく、真面目な雰囲気が漂うリビングの中、最後に母がひよりさんに向かって言う。

 

「なんか変な流れになっているけど……ひよりちゃん、雄介のことをよろしくね。馬鹿でドジで鈍い子だけど、本当に優しい子でもあるから。この子のこと、わかってあげて」

 

「……はい。大丈夫です。雄介くんがすごく優しい人だってことは、あたしもわかってますから」

 

 ……なんだ、この空気は? 僕だけ置いてきぼりにされてないか?

 なんでこう、家族全員がひよりさんに僕を任せる雰囲気になっている?

 

 生暖かい目というか、妙に優しい雰囲気というか、そういう温かくも恥ずかしい空気の中で押し黙っていた僕であったが、不意にガタガタッ! という音が響き、その音がした方へと顔を向けた。

 

「今の、窓か? 風で揺れたのかな……?」 

 

「……なんかおかしくね? 天気予報じゃ、雨も風もそこまで強くならないって言ってたんだろ?」

 

 先ほどまでは家族全員で騒いでいたから気が付かなかったが、家の窓が風のせいで激しく震えている。

 叩き付けられる雨も想像以上に激しい音を響かせており、ニュースで言っていたようなそこまで強くない雨脚を想像していた僕たちは、それと矛盾する雰囲気に違和感を覚えつつあった。

 

「ちょっ!? 兄貴、やべえよ! 大雨警報が出てる!! 暴風警報が出るのも秒読みだって!」

 

「ええっ!? 嘘だろ!?」

 

「なんか、爆弾低気圧の勢力が予想より強まってたんだって! 明日の朝には去ってるだろうけど、今夜は雨も風もヤバいって速報が出てる!」

 

 スマホで気象情報を確認していた大我の言葉通り、雨も風もどんどん強まっている。

 このままでは三十分としない内に家から出ることもできなくなってしまうと考えた僕たちは、慌てて対策を話し合い始めた。

 

「どうする? このままじゃ七瀬さんが家に帰れなくなっちゃうよな?」

 

「でも、うちには車もないし、家まで送ってあげるっていうのは無理だぞ?」

 

「タクシーを呼ぶとか……? もしくは、ご両親が車で迎えに来てくれれば……」

 

「ひよりさん、どう? 今日、家にご両親は?」

 

「……ううん、いない。多分、会社に泊まることになると思う」

 

 そうひよりさんに質問した僕であったが、彼女はその問いかけに対して首を横に振りながら否定の意を示した。

 その後で彼女はご両親に連絡を取り始める。

 

「あっ、もしもしお母さん? 実は今、優希の家にいるんだけど――」

 

 電話に出たお母さんには、女友達の家にいるとごまかしているようだ。

 流石にこんな時間まで男友達の家に遊びに行っているだなんて言えないよなと思いながら、どうにか親御さんが迎えに来られないかと期待する僕たちであったが、お母さんとの電話を終えたひよりさんはこちらを見ると小さく首を左右に振りながら話し合いの結果を伝えてくる。

 

「すみません。うちの親も迎えには来られないみたいです」

 

「そっか……そうだよね。やっぱり急だし、この雨じゃ親御さんも危ないもんね……」

 

 もうこうなるとタクシーを呼ぶしかないが、この悪天候だとなかなか捉まらないだろう。

 それでも何か方法はないかと考える僕たちへと、神妙な面持ちのひよりさんがこう言ってきた。

 

「あの……ごめんなさい。こんなこと急にお願いしたら、困らせちゃうとは思うんですけど……本当に、もし良ければ――」

 

 おずおずとした態度で、若干上目遣いになりながら、ひよりさんが僕たちを見つめる。

 一度言葉を区切った彼女は、少し溜めた後で僕たちへとお願いの言葉を口にしてみせた。

 

「――今日、泊めさせてもらえませんか?」

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