ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「……僕もさっきのご夫婦、素敵だと思ったよ。ひよりさんとあんなふうになれたらいいなって思った」
「!?!?!?」
その僕の言葉に、ひよりさんが目を見開きながらこちらを向く。
僕もそれ以上は何も言えなくなる中、彼女は顔を真っ赤にしながらこう言葉を返してきた。
「別にあたし、そこまでは言ってないよ。でもまあ……あたしも同じこと、思ったけどさ……」
段々とか細く、最後には消え入りそうになった声でのひよりさんの告白に僕は苦笑を浮かべてしまった。
周りに聞いている人がいないとはいえ、公園で何を話しているんだと冷静に自分自身にツッコむ僕へと、ひよりさんはさらに言う。
「雄介くん、高校を卒業したらどうするつもり?」
「え? あ~……まだ考えてないかな? 家族のことがあるから就職するかもしれないけど、後々のことを考えたら大学に行っておいた方がいいかもしれないし……」
入学から半年以上が経っているが、まだ僕は自分の進路について考えてはいない。
進学もいいし、就職の可能性もあるし……といった感じなのだが、それを聞いたひよりさんが言う。
「できたら雄介くんと同じ大学に通いたいな……キャンパスライフっていうの? そういうの、楽しんでみたい」
「……楽しそうではあるよね、確かに。自由時間も増えるだろうしさ」
「大学の場所によっては一人暮らしするかもだしさ、そしたら雄介くんも泊まりにきなよ。半同棲みたいなのも楽しそうでしょ?」
「うん。二人で料理したり、ご飯食べたり……考えただけでも楽しそうだ」
「でしょ? 一人暮らしを始めたら、一緒にお風呂も入れるし、お泊りも気兼ねなくできそうじゃん!」
「ぶふっ!?」
ひよりさんの言葉に、僕は盛大に吹き出してしまった。
この空気の中でそれを言うかと思いながら口元を拭う僕へと、気恥ずかしそうに視線を逸らしながらひよりさんが言う。
「……別に、その頃には気にならなくなってるんじゃない? 流石にその……そういうこともしてるでしょ」
今度は僕が顔を真っ赤にする番だった。
確かにひよりさんの言うことは正しいのだが、どうにも生々しさがあって困る。
普段のセクハラめいた雰囲気で言ってくれればツッコミもできるのだが、こんなふうにしっとりと言われると本気感が強くてそうもいかない。
小さく咳払いをしてどうにか冷静さを取り戻そうとする僕と、自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか手で火照った顔を煽いで冷まそうとしているひよりさん。
僕たち二人がなんとも恥ずかしい気持ちを抱えながら無言の時間を過ごしているところに、不意に声が響いた。
「おお、尾上。ここにいたのか」
「えっ? あっ! 田沼先生……!!」
急に僕の名前を呼びながらこちらに歩み寄ってきたのは、バスケ部の顧問である田沼先生だ。
僕たちが慌てて平静を装う中、田沼先生は申し訳なさそうに笑いながら言う。
「ああ、七瀬も来てくれていたのか。すまんな、尾上。バスケ部でもないのに、ボランティアに参加してもらって……」
いきなり謝罪してきた先生は、どこか疲れているように見えた。
昔……入学して間もない頃に行われたスポーツテストの最中に話した時は、暑苦しさを感じるくらいに元気だったはずなのに、今はその明るさをあまり感じられない。
ほぼ間違いなく、バスケ部関連で色々あったからだろう。
顧問ともなると責任を問われる立場になってしまうし、学校からも地域からも強く言われてしまったんだろうなと考えた僕は、先生を励ますように応える。
「気にしないでください。僕もひよりさんも、好きで参加してるだけですから」
「そうそう! 先生が謝ることないって!」
「……すまんな。生徒に気を遣われるだなんて、教師としてあっちゃならんことなんだがなぁ……」
はっはっ、と喉の奥から絞り出すような声で笑いながら、田沼先生が言う。
これは相当重症だなと僕とひよりさんが視線で会話する中、先生はため息を吐いた後でゴミ拾いをしながら語り始めた。