ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「お前には本当に何て言えばいいのかわからん。地域大会に出るためのチームを結成することを遊佐に勧めてくれたのもお前なんだろう? 七瀬と熊川もマネージャーとして協力してくれている。そのおかげで、あいつらはギリギリのところでモチベーションを保てた。本来それは顧問の俺や、部長の藪瀬がすべきことだったはずなのにな……」
「田沼先生は学校内外への説明や状況把握に奔走していたじゃないですか。忙しかったんですから、動けなかったのも仕方がないですよ」
「そうかもしれない。だが、人望がないということは間違いないさ。もしも俺が部員たちから慕われていたのなら、ボランティアへの参加呼びかけに全員が応えてくれたはずだ」
だが、実際はそうなっていない……と、田沼先生が寂しそうな眼差しで語る。
しかし、その眼差しには自分が生徒に慕われていなかったことがショックだったことよりも深い悲しみが浮かび上がっていた。
「……俺が知ってる藪瀬は、明るい努力家だった。練習中も弱音一つ言わず、朝練も居残り練習も自分から参加するような奴だったんだ。だから俺はあいつをキャプテンにすることに決めた。だが――」
バスケ部の現部長である藪瀬先輩について語った田沼先生は、そこで言葉を詰まらせた。
努力家であり、信頼を置いていた生徒が部の緊急事態に何も行動を起こさないどころか、停止処分を解除してもらうための活動に参加すらしなかったことが、悲しかったのだろう。
自分の見る目がなかったことか、あるいは見込んだ生徒が変わってしまったことに気付けなかったことか、そのどちらもか……田沼先生は深い悲しみに何も言えなくなっていた。
江間から続く所属部員のトラブルの連発は普通に考えてあり得ないことばかりだったし、先生も後手後手に回ってしまったのだろう。
責任がない……とは、言えないのかもしれない。
ただ、田沼先生が元凶であるとは思えない僕は、少し迷った後で口を開く。
「またここから始めればいいんじゃないかって、僕は思います。今は他の部員たちも気落ちして、正常な判断ができないだけかもしれません。時間が経って、先生や楽人たちが一生懸命に頑張る姿を見たら、自分も何かできることはないかって考え始めると思いますよ」
活動停止処分を受けても、そこから這い上がる道が見えなくても、仲間たちが動こうとしなくても……まだ終わりじゃない。
練習もゴミ拾いも、大事なのは
「あたしも雄介くんの意見に賛成です! 下を向いてても何も変わらない。だったら、頑張り続けるしかないでしょ!」
「……そうか。そうだな。大人である先生が凹んでる場合じゃないよな」
僕の言葉に同意したひよりさんからも励ましの言葉を送られたおかげか、田沼先生は少しだけ元気になったように見えた。
深く息を吐いた後、先生は笑顔を浮かべながら大きな声で言う。
「よし! 折角の機会だ! 今日は来てくれたメンバーで焼肉でも行くか! 先生が奢っちゃるぞ!」
「マジですか!? やった~っ!」
「それ、いいんですかね? ボランティア活動じゃなくなってません?」
「構わんさ! これはあれだ、大会に出るお前たちを激励するためのものだ! そういうことにしておこうじゃないか! なあ!?」
調子のいい田沼先生の言葉に、僕は苦笑を浮かべながらツッコミを入れる。
それを先生が笑い飛ばす中、ひよりさんが楽しそうな声で言った。
「焼肉か~! ちょこちょこ雄介くんの家で食べてるけど、どこかのお店で食べることってなかなかないから楽しみだな~!」
「ん? なんだ七瀬? お前、尾上の家に遊びに行ってるのか?」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
ひよりさんの失言を拾った田沼先生に対し、僕は若干動揺しながらそう答える。
それで大体を理解したであろう先生は、うんうんと頷いた後でこう続けた。
「そうか! 青春、いいじゃないか! ただまあ、教師として節度のあるお付き合いをしろとは言っておくからな!」
「は、はい。もちろんです……!」
「だがしかし……うん。スポーツテストの時に尻がなんだかんだとはしゃいでたお前たちがなぁ……! やっぱり尾上は七瀬の尻に敷かれてるのか?」
「先生? その発言、結構ギリギリどころかアウトに片脚突っ込んでるんで止めましょうか?」
先生の発言の危うさもそうだが、僕としてはもう一つ不安に思っていることがある。
ここでひよりさんが口を滑らせて「雄介くんはあたしのお尻が好きだから、自ら敷かれにきてるんですよ~!」なんて言おうものなら、先生たちの間にも僕の変なうわさが広まってしまうではないか。
楽人が間沼くんに変なことを言ったせいで後輩たちの間にも尻フェチ疑惑が広まる可能性があるというのに、全生徒と関わる先生にまで妙なうわさが広まったら大変どころの話じゃない。
この後の食事会では、絶対にひよりさんから目を離さないようにしよう……そう思いながら、僕はこれ以上のうわさの拡散を防ぐことを固く誓うのであった。