ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「卒業後か~……まだ全然気が早い話だけど、俺ら何してるんだろうな~?」
「同窓会って五年とか十年経ってから開かれる感じでしょ? その頃にはもう、結婚してる人たちもいるんじゃない?」
と、いう言葉と共に、全員が僕とひよりさんを見てくる。
言わんとしていることを理解した僕は、苦笑を浮かべながら答えた。
「どうだろうね? 時期にもよるだろうけど、まずは就職して生活を安定させてからそういう話になるんじゃないかな?」
「その口ぶりからすると、雄介は七瀬さんと結婚する気満々なんだな。まあ、わかってたけどさ」
「回答が真面目過ぎる! でもまあ、そこが尾上くんのいいところなんだろうね」
普通に答えたつもりなのだが、なんだか面白く思われてしまったようだ。
ひよりさんはどう思っているのかなと思いながら彼女を見れば、頬を緩ませながら楽しそうに何かを呟いていた。
「尾上ひより、かあ……うん、悪くないね」
「ひよりの方も普通に尾上くんと結婚する気しかないんだよなぁ……まあ、それもわかってたけどさ」
「もうお前ら十八歳になったら籍入れろよ。どうせ遅かれ早かれそうするんだからさ」
「いや、そこは段階を踏んでいきたいからさ」
「そうそう! 焼肉食べるっていうのにいきなりデザートのアイスから食べる人は流石にいないじゃん? 将来的に結婚するからって色々すっ飛ばして籍を入れちゃうっていうのは……ねぇ?」
「妥当な考え方とは言え、そういう意識も一致してるのは流石だわ……もう実質夫婦じゃん」
という、周囲からのからかいに僕はどう反応すべきか困っていた。
ひよりさんの方は案外ノリが良く、楽しそうにそういった声に反応している。
「褒めてくれてありがとうね! まあ、あたしたちは結構特例だから、あんま未来の参考にはならないと思うな!」
「そうよね。ところ構わずイチャつく二人だからゴールインまで一直線って感じなのはわかるけど、それ以外のことは何にもわかんないもんね」
「どこに住んでるとか、どんな仕事に就いてるとか……確かにそういうのは想像できないよな」
「そりゃあ難しいでしょ。私たち、まだ高一なんだからさ」
あともう少しで進級するとはいえ、僕たちはまだ高校一年生……将来のことなんてうすぼんやりとしか考えていない。
進学するか就職するかも迷っている僕からしても、未来のことなんてほとんど何もわからなかった。
「俺としては遠い未来よりも近い未来の方が心配だよ。特に志乃と雅人くんはもう少しで受験じゃん? そっちは大丈夫そう?」
「俺は問題ないっすね。対策はバッチリなんで」
「……良ければ俺に勉強教えてくれない? いや、大丈夫だとは思うんだけどさ……」
ハラミを頬張りながら平然と答える雅人と、少し不安そうに答える間沼くんといった感じで、反応はほぼ真逆だ。
勉強が得意とはいえ、受験のプレッシャーをものともしない弟は流石だなと思いつつ、僕は間沼くんにフォローを入れる。
「大丈夫だよ。案外、本番を迎えたら緊張は感じなくなるものさ。バスケの試合だと思えばいい」
「そんなもんですかね?」
「うん。そういう意味では、帰宅部だった雅人より間沼くんの方が本番慣れしてるから有利だと思うよ」
競うものでもないけどさ、と付け加えつつ間沼くんへと言えば、彼は少しだけ不安を解してくれたようだ。
小さく息を吐いた後、間沼くんもまた未来についての話をする。
「じゃあ、俺が入学するまでにバスケ部も活動再開してもらわないとですね。高校でバスケができないのは悲しいですから」
「だな。そのためにも、大会でいい成績を残すぞ~っ!」
「成績は関係ないよ。ただ純粋に楽しめれば、それでいいじゃない」
地域の大会で優勝したからといって、いきなりバスケ部の活動停止処分が取り下げられるわけじゃない。
だけど、みんなで心を一つにしてバスケットを楽しんだこの時間は、一生の宝物になるはずだ。
そういう気持ちを込めた僕の言葉を聞いた楽人は大きく頷くと、鞄から一枚の書類を取り出し、みんなへと言う。
「ちょうどいい機会だし、参加メンバー表に名前書いてこうぜ! やる気とバスケへの愛を込めてさ! あっ、雅人くんと大我くんもついでに書いとく?」
「えっ? いいんすか? 俺ら、バスケできないし当日もベンチに入ることはないと思いますよ?」
「いいよ、こういうのはノリだからさ! 見ての通り、選手は十人もいないんだ。枠を余らせるのも格好悪いし、名前だけでも貸してくれると助かる」
「そういうことなら……まあ、ノリって大事ですもんね! 戦いに勝つのにも必要ですし!」
という軽いノリで弟たちもまたメンバー表に名前を書き込んでいく。
そこからチーム全員分の名前が書き込まれた後、自分の下に回ってきたメンバー表へと視線を落とした僕は、小さく笑みを浮かべた。
(なんだか、ここに込められたみんなの気持ちが伝わってくるみたいだ……)
ただ名前が書かれているだけの、普通の紙。だけど、今の僕たちにとってはとても深い意味を持つものだ。
遠い未来のことも、近い未来のこともわからない。それでも、みんなで思い描く未来を現実にするために気持ちを一つにして頑張ろうという想いが、見ているだけで伝わってくる。
渡されたペンでそこに自分の名前を書き込んだ僕は、どこか誇らしい気持ちになれた。
そんな僕に優しい眼差しを向けてくれるひよりさんと目を合わせ、同時に噴き出した後、僕たちは仲間たちとの食事会を楽しんでいくのであった。