ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ドリンクOK! ポップコーンもOK! あとはチュロスとホットドッグとアイスクレープと……!」
「流石に買い過ぎだって。映画の最中にお腹壊しちゃうよ?」
チケットに記載されていた映画館は、僕たちの家から少し離れたところにあった。
売店の品揃えは普段使っているところとは違うが、それ以外はどこにでもあるような普通の映画館だと思う。
ひよりさんが買った品々を半分持ちながら、僕はもう片方の手でチケットを確認する。
通常の券売機で買うのではなく、係員さんに見せて受付をしてほしいと書いてあったので、とりあえず僕たちは言われた通りに手続きをしておいたのだが、ちょっと気になることがあった。
「係員さん、なんか楽しそうだったね。一番いい席を選んでおきましたって言ってたしさ」
「本当にいい席なんだろうけど、自分で席を選ばないっていうのは初めてだから、変な感覚だな……」
チケットを確認した係員さんとのやり取りを思い出しつつ、通常の映画鑑賞とは色々と違う部分があることに戸惑っていたのは、僕だけではないようだ。
これがプレミアムなのか……? という疑問を抱きつつ、僕たちは指定されたシアターに向かう。
「う~ん、流石はあたしたち。久しぶりのデートで見に行く映画がロマンチックさの欠片もないホラーって、我が道を突き進んでますな!」
ひよりさんの言葉に苦笑しつつ、僕たちらしいなと心の中で同意する。
見る映画の内容に甘さの欠片もないじゃないかと思いつつ、お互いに見たい映画が見事に一致したのだからこれでいいのだと考えながらエスカレーターを昇っていった僕たちは、最上階に辿り着いた。
どうやらこの階にはシアターは一つしかないらしい。
迷うことなくその中に入った僕たちは、シアター内の光景を見て、おっと小さく声を漏らした。
「うわ、ひっろ~っ! 椅子も豪華だ~!」
普段使っている映画館よりも広めの空間と、何かの発表会でもするのかと思わせるくらいに巨大な画面。
本当に広い映画館は、内装もかなりゴージャスになっている。
音響も拘っているような雰囲気だし、このサイズの画面ならば最後列の席でも良く見えそうだなと思いながら並ぶ席を見た僕は、そこにもプレミアムさを見出して感心した。
「一つ一つの席が完全に区切られてるんだ。より映画に没入しやすい作りになってるんだね」
「なるほど! これがプレミアムってことか!」
通常、映画館の席は椅子同士がくっついた状態で並べられている。
しかしこのシアターでは椅子と椅子の間に仕切り兼荷物置き用のスペースが作られており、一つ一つの席が完全に区切られていた。
おまけに足を伸ばせるように前の席との間隔も空けられているし、席自体も高級車のシートのような豪華な素材が使われているように見える。
確かにこれはプレミアムだと、今まで自分たちが使っていた映画館と比較した僕たちは、その言葉の意味を理解してうんうんと頷いた。
同時に、自分たちの席を探し、係員さんから貰ったチケットを確認する。
どうやら僕たちの席は一番後ろにあるようで、ちょっと大人な雰囲気にドキドキしながら僕たちは階段を上っていった。
「え~っと、一番後ろの……番号的に真ん中の席みたいだね」
「やった~っ! 流石は一番いい、席……?」
チケットを見つつ移動し、他愛のない会話を弾ませる。
そんなこんなで最後列までやってきた僕たちは、そこに並ぶ座席を見て、一瞬固まってしまった。
「ええ……? すっご……!」
「こ、こんなのもあるんだ……」
最後列の広々としたスペースに置かれていたのは、座席というよりもソファーとでも呼ぶべきものだった。
両サイドの肘掛けにドリンクホルダーが、中央にはポップコーンのフードを置くであろうテーブルが用意されているその席には、脚を置く用の台座まで完備されている。
五つほど用意されているそのペアシートの周囲は少しずつ間が空いていて、軽い仕切りも相まって他の座席とは完全に独立しているように見えた。
「ねえ、雄介くん。もしかしなくてもなんだけどさ……」
そんな席を確認したひよりさんが、僕を見つめながら口を開く。
同じことを想っているであろう彼女へと視線を返す中、ひよりさんはこう言った。
「これ俗に言う、カップルシートってやつなんじゃないかな?」
「うん……もっと正確に言えば、プレミアムカップルシートって名前だと思う……」
係員さんの楽し気な笑顔の理由が、ようやく理解できた。
イチャつきながら映画を見れるカップルシートを見つめながら、先ほど見た係員さんの笑顔を思い返した僕はしばし席の前で硬直していたのだが、そんな僕へとひよりさんが言う。
「まあ、いいんじゃない? 別に困ることなんてないんだしさ! とりあえず座ろうよ!」