ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
そう言いながら先んじてソファーに座ったひよりさんが真ん中のテーブルにポップコーンを置く。
確かに僕たちはカップルなんだし、それ用の席に座っても何も問題ないなと思い直した僕もまた、彼女の隣に腰を下ろした。
「雄介くん、すごいよ! この席、めっちゃ座り心地がいい! 流石はプレミアム!!」
実際に座ってみてわかったことだが、プレミアムシートは見た目だけでなく座り心地も抜群だ。
柔らかいが沈み過ぎることもない絶妙な状態に仕上げられているそれに興奮するひよりさんは、なんだかとても楽しそうだった。
「なんか、夏休みにホラー特番を見た時のことを思い出すね。あの時は雄介くんにあたし専用プレミアムシートになってもらったけど、今回は隣同士だ」
「流石にあれは映画館じゃできないもんなぁ……いや、そもそもやるつもりもないけどさ」
ひよりさんを後ろから抱き締める形でホラー特番を見た時のことを思い出した僕が苦笑を浮かべる。
なんだかホラー関連の何かを見る時はくっ付いていることが定番みたいになってきたなと考える中、ひよりさんがいたずらっぽく笑うと共に僕へと言った。
「ところで雄介くん、本当に
「えっ? いや、そんなことないよ」
「え~? 本当かな~? こういうくっ付ける席でホラー映画を見るとか、狙ってやってる感があるけどな~?」
そう言いながら、ひよりさんがすすすっと僕との距離を詰めてくる。
そのまま僕の腕を取った彼女は、むにっと自分の胸に押し付けるように抱き締めながら演技ぶった様子で言う。
「きゃ~っ、雄介くん怖~い! ……的な展開を狙ってたりしてない?」
「してないって! そもそもこの映画を見るっていうのは二人で決めたでしょ!? 僕が強引に推したわけでもないしさ!」
急に胸を押し付けられてドキドキしてしまったが、ここに来るまでの道中で同じことをされていたおかげで耐性ができていた僕は若干慌てながらも反論することができた。
本気で疑っているわけではないだろうが、からかいのいいネタを見つけたひよりさんはくすくすと笑うと共にこう言葉を続ける。
「う~ん……まあ、本当にそんなすけべなことを考えてたら、ホラーはホラーでもジャパニーズホラーは選ばないか」
「えっ? どういう意味?」
確かに今日は小説が原作のジャパニーズホラーを見に来たわけだが、それがカップルシートとどう関係しているのだろうか?
ひよりさんの言葉の意味が理解できなかった僕へと、彼女は少し視線を泳がせた後で言う。
「いや、あのさ……海外のホラーって、恋人同士がイチャイチャするシーンがどこかに入ってるのが定番でしょ?」
「ああ、うん。そこで殺人鬼が出てきて、殺されるのが定番だよね」
「だから、そういうシーンを見せて、あたしの反応を楽しもうとしてたんじゃないかな~って……」
「しないよ、そんなこと! 僕、そんなセクハラをする人間だと思われてたの!?」
とんでもないひよりさんの発言に思わずツッコミを入れれば、彼女もここまで深掘りされるとは思っていなかったのか、恥ずかしそうに視線を逸らしてきた。
無自覚にカウンターを決めてしまったところで、ひよりさんがアイスクレープを僕の口の中に押し込んでくる。
「……雄介くん、うるさい。他のお客さんの迷惑も考えなきゃダメでしょ?」
「いや、元はと言えばひよりさんが……」
ごまかしも兼ねて僕に責任転嫁してきたひよりさんへとクレープを一口齧った後でツッコもうとしたのだが、膨れっ面の彼女に視線で制止されてしまった。
そのまま僕が食べたアイスクレープを頬張り始めたひよりさんを尻目に周囲の席を確認した僕は、あることに気付いてしまう。
「……そういえば、僕たち以外にカップルシートを使ってる人いないね。お客さん自体もそこまで多くないみたいだ」
劇場が広いということもあるのだろうが、映画を見に来ている人はそこまで多くないように見える。
見に来ている人も真ん中くらいの席を確保しているせいか、後方は僕たちだけしか観客がいないようだ。
「ふ~ん? へ~? ほ~? つまり、周りを気にせずにくっ付ける、ってことかな?」
「ひよりさん、公衆の面前でそんなことしちゃダメだよ? 他のお客さんの迷惑も考えなきゃ」
「むぅ……!」
やり返すようにさっきの言葉を返してみせれば、ひよりさんはまたしても不満そうに頬を膨らませてきた。
そんな反応を見せつつも僕の肩に頭を乗せるように体を預けてきた彼女は、クレープを食べながら言う。
「まあ、そりゃあね? あたしだって映画館で人目を気にせずにキスとかハグなんてしないよ。ちゃんとその辺は弁えてますから。でも女の子だし、怖いシーンとかで彼氏に抱き着いたりするのは許してもらえるよね?」
「あはは……! もちろん、大丈夫だよ」
拗ねた様子でそうぼやいていたひよりさんが、僕の答えを聞いて満足気に笑う。
そのまま僕に体をぴったりとくっ付けたところで劇場が暗くなり、いよいよ映画の上映が始まった。