ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
『……これまで発生した不可解な事件や現象は、全てこの地域に関係している。東海地方のこの地域……ここにいったい、何があるっていうの……?』
映画の内容としては、とある記者が数十年前から起きている不可解な事件の数々を追った末にとある地域に潜む恐怖に遭遇するというものだ。
短編を積み重ねていき、その事件の裏にあるものが少しずつ線となって繋がっていく様は、ホラー映画なれど爽快感のある作りになっている。
場面は中盤、記者は一人で深夜の資料室で調べものをしていた。
蛍光灯の明かりがわずかに彼女を照らす中、不穏な気配が漂い始める。
「っっ……!!」
じりじりと記者に近付く何かの気配。ただ、調べものに熱中している彼女はその気配に気付かない。
観客たちの緊張が否応なしに高まっていく中、ひよりさんも警戒するように身を縮こませながら僕へと体を預けてきている。
無意識なのか、あるいは安心するために敢えて自分から体を預けているのかはわからないが、僕はそんな彼女の横顔とスクリーンを交互に見ながら、その両方を楽しんでいた。
『あった! 地域に伝わる伝承! 全ての元凶はこれなの? でも、そんなことが本当に……?』
歓喜にも近しい声をあげた記者に迫る、何者かの手。
緊張の一瞬にひよりさんが息を飲んだ次の瞬間、スクリーンの中の女性記者が悲鳴を上げた。
『きゃあっ!?』
肩を叩かれた記者が小さな悲鳴を上げたのと同時に、シアター内の観客たちもまたビクッと体を震わせる。
ひよりさんもまた悲鳴に反応するように体を震わせる中、振り向いた記者の驚きの表情が映し出された。
『もう、びっくりさせないでよ……!』
『ご、ごめん。差し入れを持ってきたんだけど……』
彼女に近付いてきたのは、怪異ではなく同僚の男性記者だった。
謎の気配の正体が割れ、緊張感が緩まったせいか、シアター内に安堵のため息が漏れる音が静かに響く。
僕の隣からも似たような音が聞こえてくる中、ちらりと視線を向けたところで同じくこちらを見てきたひよりさんと目が合った。
「……雄介くん、映画じゃなくってあたしのこと見てたでしょ? 怖いシーンだから目を逸らしたくなっちゃった?」
「ううん。ひよりさんがくっ付いてくるから、かわいいな~と思って、つい見ちゃってただけ」
「むぅ……! 馬鹿にしてぇ……!!」
馬鹿にしてないし本心からそう言っているのだが、怯えている姿を見られていたことに恥ずかしさと悔しさを感じているのだろう。
ぷくっと頬を膨らませたひよりさんを見つめながら、僕はそっと彼女を抱き寄せる。
「わっ……!?」
「これでもうちょっと安心できるでしょ?」
珍しい僕からのアプローチに、顔を赤くしたひよりさんが視線を泳がせる。
そうした後、僕に乗っかるように強く体を預けながら、腰に回した手に自分の手を重ねてきた。
「仕方がない。あたしとくっ付きたい雄介くんの要望に応えてあげますか!」
「ふふふ……っ! ありがとうございます」
ちょっと強がる彼女をからかうようにそう言ってみせれば、反撃として痛くない程度に手を叩かれてしまった。
そのまま僕の胸に頭を押し付け、体重を預けてきたひよりさんをそっと抱きながら、僕は静かに映画鑑賞を続けるのであった。