ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「むむぅ……! 最近、雄介くんの耐性が上がってる気がする……!! さっきも平然とあたしを抱き寄せてたし、おっぱいが当たっても気にしてない感じだったし……!!」
「慌てなくなっただけで気にはしてるよ。彼氏として、ちょっと余裕が出てきただけ」
「ぐぬぅ、本当に余裕がある……! カップルシートを見た時は動揺してたのに、慣れとは恐ろしい……!!」
映画を見終えた僕たちは、そんな会話を繰り広げながら街を歩いていた。
なんだか面白いことを言うひよりさんのリアクションに苦笑を浮かべながら時間を確認した僕は、もう一枚のチケットの裏側を彼女に見せながら言う。
「この後はカフェでご飯を食べる予定だけど、まだ早いよね?」
「そうだね。ポップコーンとかいっぱい食べちゃったし、夕方くらいまでは時間を空けたいかも」
昼前から映画を見て、今は午後二時くらいの時間帯。
映画を見ている最中にフードメニューを食べたこともあってお腹は空いていないし、チケットにはディナーで使用可能との記載があるため、今すぐに行ってもこれは使えない。
どんなに早くてもお店に行くのは五時くらいじゃないとダメだよなと思いつつ、それまでのおよそ三時間をどう潰そうか考えようとした僕へと、ひよりさんが手を挙げて言った。
「はいっ! あたし、行ってみたいところがあるんだけど!!」
「おっ、そうなの? じゃあ、そこに行ってみる? あんまりお店から離れると後が大変そうだけど、大丈夫そう?」
「うん! 映画館に来る途中で見つけてたんだよね~! 結構近いところにあるから、すぐに着くと思うよ!」
ニコニコと笑いながらそう答えたひよりさんが、僕の手を引っ張って目的地へと歩いていく。
どこに行くかを教えないのは敢えてなんだろうなと理解した僕も質問せずに彼女に促されて進んでいき、映画館から少し離れたところで足を止めた。
「はい、到着! ね? 近かったでしょ?」
そう、どや顔をしながらひよりさんが指し示したのは、全国展開しているチェーン店の漫画喫茶だ。
ショッピングやアクティビティを楽しむ場所を想像していた僕は、予想外のセレクトに少し戸惑ってしまう。
(ひよりさん、どうしてここに来たがったんだろう? 何か読みたい漫画でもあるのかな……?)
普段のひよりさんからは想像もつかない選択に困惑しつつも、彼女が行きたいというのならば僕としては断る理由なんてない。
というわけで中に入り、初来店ということで会員証を作った僕は、プランなんかに関してはひよりさんに全てお任せすることにした。
「時間は三時間でいいよね? それで、シートは……ペアのフラットシートでお願いします!」
という感じで受付を済ませた僕たちは、貰った番号札に書いてある数字のブースへと向かう。
ドリンクバーが並ぶ飲食スペースや漫画が大量に置いてあるエリアを抜けて扉が並ぶ廊下まで辿り着いた僕たちは、早速自分たちのブースの扉を開けてその中を確認した。
「あっ、なるほど。フラットってそういうことか……!」
勝手なイメージだが、漫画喫茶の個室というのはパソコンが置いてある机と椅子が置いてある狭いスペースだと思っていたのだが、ひよりさんが選んだ部屋は僕の想像と全く違った。
パソコンが置いてある机はあったが、
体が大きな僕が寝転がっても余裕がありそうなブースを見て、思ったよりも快適に過ごせそうな場所だなと思う僕に対して、満足気に笑ったひよりさんが言う。
「時間を潰すにはうってつけの場所でしょ? ドリンクバーも付いてるし、たまにはこうして二人でまったり過ごすデートもいいでしょ?」
「うん、そうだね。こういうのも悪くないや」
最近はバスケの練習で激しく運動していたし、オフの日にこうしてひよりさんとぐだ~っと過ごすのも悪くない……というより、最高だと思う。
これぞ時間を潰すの典型的な例! とばかりのまったりとした時間を過ごすことにした僕は、一旦ブースに上がると使用感を確かめつつ、荷物を置く。
「あれ? ドア、覗き窓が付いてるんだ? ってことは、覗こうと思えば簡単に覗けちゃうのか……」
カラオケのようにブースの入り口が廊下に面しているわけではないから通りすがりに中を覗かれるということはないだろうが、これだと簡単に中の様子が確認できてしまう。
鍵もかけられないし、防犯の部分には難があるから、貴重品は持っておいた方がいいなと思いつつひよりさんと一緒にブースを出た僕は、ブランケットで覗き窓を隠しているブースを見て、ちょっと感心した。
(なるほど、ああやって中を覗かれないようにするんだな)
こういう場所を利用する人たちの中にはひと眠りする人もいるだろうし、無防備な姿を晒したくないという気持ちもわかる。
ああやって対策するのかと思いつつ、真似させてもらうことを決めながら、僕はドリンクを取りに飲食スペースへと向かっていった。