ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「うっひょ~っ! ドリンクバーだけじゃなくってスープバーもソフトクリームマシンもある! 豪勢だな~!」
「気持ちはわかるけど、この後ご飯を食べるってことを忘れないでね? 調子に乗ってドカ食いしたら、夜ご飯が食べれなくなっちゃうよ?」
「わかってるって~! もう、雄介くんは心配性だな~!」
ニコニコ顔のひよりさんが、そう僕に応えながら自分の顔より高くソフトクリームを巻いていく。
テンションが迷子になってるなと思いつつも気持ちはわかる僕は、何も言わずに自分と彼女の分の飲み物を紙コップに注ぐと、続けてトッピングを始めたひよりさんのことを待つことにした。
(戻る途中でブランケットの場所を確認しておかないとな。この一回じゃ持ち切れなそうだし……)
飲み物とちょっとしたフード、それにブースで読む用の漫画やブランケットを持ち帰るとなると、一回じゃ全部を持ってはいけない。
何度か往復する必要があるなと思いながら必要な物がどこにあるかを周囲を見回して確認していった僕は、自分たちのブースとは逆方向にまた別のブースが並んでいそうな廊下があることに気付く。
あっちはシングル向けのブースかな? と思いながらぼーっと見つめていた僕へと、ソフトクリームを巻き終えたひよりさんが声をかけてきた。
「お待たせ! 一旦戻ろうか!」
「ああ、うん。了解」
すぐに視線を戻し、ひよりさんと一緒に自分のブースに戻る。
そうした後で漫画コーナーにやってきた僕は、さっき見たものを彼女に話してみた。
「そういえば、あっちの方にもブースがあるみたいだね。お一人様向けの部屋かな?」
「あ~、多分違うよ。あれは完全個室の部屋だと思う」
僕が指差した方を見たひよりさんがそう答え、詳しく説明してくれた。
「ほら、あたしたちが使ったブースって、足元と天井に隙間が空いてる半個室って感じでしょ? 対してあっちは、完全に部屋になってる個室。きっちり壁に囲まれてるから、防音も段違いらしいよ」
「へ~、そうなんだ? どうしてあっちを選ばなかったの? やっぱり高いから?」
普段のひよりさんなら、半個室ではなく完全個室の部屋を選びそうなものなのに、どうしてそうしなかったのだろうか?
値段の問題かなという疑問を彼女にぶつけてみせれば、ひよりさんは首を振って否定の意を示した後でこう答えてくれた。
「そもそも無理なんだよ、未成年はあっちの部屋を使えないんだって。法律で決まってるっぽいんだよね」
「えっ!? そうなの!?」
「うん。あと、ソフトクリームとかドリンクも持ち込み禁止。なんかの条例に引っ掛かっちゃうとか、そんな理由だったかな?」
そもそも選択肢がなかったのか、とひよりさんの回答を聞いて納得したところで、僕はふと思ったことを彼女へと言う。
「なんかひよりさん、詳しくない? もしかして事前に調べた?」
「ごそ~ぞ~におまかせしま~す!」
これ、突発的な行動じゃないな。完全に事前調査を行った上で提案された行先だ。
ひよりさんのおどけた態度から色々と察した僕は苦笑しながらも、お目当てのブランケットを手に取って再度ブースに戻ることにした。
「まあ、完全個室は大人になってからのお楽しみってことにしておこうよ。今日はまったり過ごすってことでさ!」
「うん。いつかのお楽しみにとっておこうか」
機会があれば、あっちの部屋を使うこともあるだろう。別に今すぐ入りたいというわけでもないし、その日を待てばいい。
というわけで支度を整えてブースに戻った僕は、ブランケットで覗き窓を隠してから中に入った。
「ちっちゃいけど座椅子もあって助かるね! 別に床に直接座ってもいいけど、背もたれがあるのが助かる!」
「ああ、うん、そうだね……」
「……今、この座椅子じゃあ小さ過ぎてひよりさんのお尻がはみ出しそうだな~、って思ったでしょ?」
「……思った」
頭の中を見透かしてきたひよりさんの言葉を肯定すれば、とても緩いパンチがお腹に飛んできた。
ぷりぷりと怒りながらソフトクリームを食べ始めた彼女は、僕の方を見ないまま話しかけてくる。
「まったく! ここが静かにしなくちゃいけない場所で良かったね! そうじゃなかったら本気のグーパンを叩き込むところだったんだから!」
「はい、すいません……」
「雄介くんが覗き窓を塞いでくれたおかげで中で何が起きてるかわからなくなってるし、血の惨劇が繰り広げられててもおかしくなかったんだからね!?」
「申し訳ありませんでした……」
地雷を踏んだことを謝罪する僕であったが、心の中ではひよりさんもお尻関連で僕を弄ってくるのだからそういうことを考えるようになる責任の一端があるんじゃないかな~とか思っていた。
とはいえ、彼女が気にしている部分に触れるべきじゃなかったなと反省する中、ソフトクリームを食べ終えたひよりさんがお皿を机の腕に置いてから僕へと向き直ってくる。
「……ん」
「ん……?」
こちらをただ見つめて小さく唸ったひよりさんの真意がわからずに、僕は首を傾げる。
そんな僕へと、小さくため息を吐いた後で微笑んだひよりさんは、静かな声で言った。
「……イチャイチャ、したくないの? 窓をブランケットで隠したのは、そのためじゃないの?」
「えっ? あっ……!」
半個室、誰も外からは中の様子を窺えない状況。うるさくさえしなければ、お店の人や他のお客さんも何も言ったりはしないだろう。
周囲に注意を払う必要はあるが、実質今、僕たちは二人きりなわけで……と、現在のシチュエーションを理解して顔を赤くする僕へと、ひよりさんが囁く。
「ほら、おいで。今日はひよりさん成分を補充したかったんでしょ? い~っぱい、甘えさせてあげる……♥」