ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ご飯、美味しかったね! おしゃれだったし、景色も綺麗だった!」
「そうだね。流石はプレミアムって感じだ。改めて、田沼先生に感謝だね」
日が暮れるのもすっかり早くなった冬の夜道を歩きながら、僕たちは今日のデートを振り返る。
映画を見て、漫画喫茶で時間を潰して、最後におしゃれなカフェで夕食を楽しんで……運良く手に入れたプレミアムチケットのおかげで、今日は本当にいい一日になった。
焼肉を奢ってくれた上に福引の景品まで譲ってくれた田沼先生には感謝してもし切れないなと思いながら、冬の寒さで少しだけ冷たくなっているひよりさんの手を優しく握る。
指と指を絡ませながら僕の手と繋がっている小さな手を握り締めれば、彼女もまた同じように力を込めて握り返してくれた。
「でも、最後のカフェのプレミアムな席は必要なかったかも。料理は美味しかったけどさ」
「ああ、横並びの席のこと?」
「そうそう! それそれ!」
不満……というわけではないが、ひよりさんが何を言わんとしているかは僕にもわかった。
くすくすと喉を鳴らして僕が笑う中、二人して思っていたことを彼女が言う。
「確かに横に並んで座りながら、綺麗な景色と美味しい料理を楽しむってのは素敵だったけどさ……あたしたち、普段からやってるせいでそこまでプレミアムって感じがしなかったんだよね~……」
「わかる。雰囲気的には家でご飯を食べてるのと同じだったもんね」
デートの締めとなるカフェでの食事は、二人で同じ景色を楽しむために横並びのカウンター席に通された。
ひよりさんの言う通り、景色も料理も素敵だったと思うが……二人で並んで食事するというのは、結構な頻度で僕の家でやっているせいか慣れがあったようだ。
普通のカップルは向かい合って食事するのが当たり前で、こういう形での座り方に新鮮さを感じるものなのだろう。
色々と例外と言って差し支えない自分たちの特異さに苦笑しながらも、やっぱり思うのは今日は楽しかったというシンプルな感想だった。
「贅沢な悩みだね。プレミアムが普段通りだなんてさ」
「あははっ! 本当だよ。楽人たちに話したら呆れられちゃいそうだね」
そんな会話を続けながら、家に続く道をゆっくりと歩いていく。
歩幅が小さいひよりさんにペースを合わせているというのもあるが……それ以上に、もう少しだけ長く一緒にいたい気分だった。
久しぶりのデートだから、まだ物足りなく感じているのだろうか? それとも、漫画喫茶でのやり取りのせいで甘えたいという欲があふれ出しているせいだろうか?
こんなことを考えるなら最寄り駅に着いたところで近くのファミレスにでも誘っておけば良かったなと思いながらも、カフェでの食事を終えたばかりなのにそれは不自然かと思い直したところで、ひよりさんが口を開く。
「朝も寒いけど、夜も寒いね。もう冬って感じだ。でも、手は温かいね」
恋人繋ぎしている手に力を込め、お互いの体温を感じ合いながら視線を交わらせる。
心地良い甘さと温もりをもっと感じていたいと思いながらも、これから先、いくらでもこうしていられるから焦る必要はないと、僕は自分自身に言い聞かせた。
「……今日は、星が綺麗だね」
「ん~?
「そんな回りくどい言い方はしないよ。ひよりさんもわかってるでしょ?」
「あははっ! 確かにそうだ! 雄介くんはいつもストレートだもんね!」
冬の空は空気が澄んでいるおかげか、普段より星が綺麗に見える。
夜空を眺めるために足を止めたのか、それとも足を止める理由として夜空の話を持ち出したのか……自分でもわからないが、本当に星が綺麗だと思ったことは間違いない。
何か、僕にでもわかるような星座は見えるだろうかと思いながらしばし無言になって夜空を見つめ続ける中、不意にひよりさんが僕へと言う。
「……これからはバスケの大会に備えなくちゃいけないから……またしばらく、デートできなくなっちゃうね」