ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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ひよりさんと僕とみんなと、バスケットボール大会
大会当日、朝


 ……それからの数週間は、あっという間に過ぎた。

 休日だけでなく、放課後に集まれるメンバーで野外バスケットコートに行ったりして練習を重ね、チームワークを強化しながら勘を取り戻していく。

 間沼くんも少しずつ体力を取り戻し、作戦も幅が広がってきた。

 

 まずは楽しむこと、そして練習の成果を出し切ることを目標に掲げ、慌ただしくも充実した日々を過ごしていって……ついに、その日がやってくる。

 十二月の休日、地域住民たちが参加するバスケットボール大会当日。

 朝、出掛ける前に忘れ物がないか確認していた僕へと、母が声をかけてきた。

 

「なんだか懐かしいわね、この感じ。中学の頃は、試合がある度にこんな雰囲気だった気がするわ」

 

「うん。久々だなって、僕も思ってた」

 

 もう経験することはないと思っていた、試合当日の朝の緊張感。

 部活でやってるわけでもないし、公式の大会というわけでもないのだが、久しぶりの試合だからというせいか、妙にざわついてしまう。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。今日は楽しんできなさい。あとで雅人と大我と一緒に応援に行くから」

 

「じゃあ、そこまで勝ち残ってないとね。折角来てもらったのに試合を見せられなかったら申し訳ないしさ」

 

「ふふっ! そんな口を叩けるなら、心配する必要はなさそうね」

 

 久しぶりにバスケに臨む僕を見た母が、懐かしそうに笑う。

 ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴り、母は促すように玄関の方を見やった。

 

「お迎えが来たみたいよ。いってらっしゃい、雄介」

 

「うん。いってきます」

 

 そう、短く挨拶をした後で確認を終えた荷物を手に取り、玄関に向かう。

 靴を履いて外に出れば、そこには僕を待つ小さな女の子の姿があった。

 

「雄介くん、おっはよ~っ! 迎えに来たよ!」

 

「おはよう、ひよりさん。わざわざありがとうね」

 

 元気よく挨拶をしてくれたひよりさんと一緒に、会場へと歩き出す。

 妙にテンションの高い彼女は、声と胸を弾ませながら興奮気味に話しかけてきた。

 

「う~、なんかソワソワする……! 別にあたしが試合に出るわけじゃないってのに、昨日の夜も妙に緊張して全然寝れなかったんだよね」

 

「あははっ! 寝坊しなくて良かったよ。でも、試合の日に緊張するっていうのはわかるな」

 

「雄介くんも緊張した? 昨日、ちゃんと寝れた?」

 

「普段よりは寝つきが悪かったかな? 緊張してたっていうよりかは、楽しみだったからさ」

 

 まるで遠足前夜の小学生だなと、自分で言っておきながらそう思ってしまう。

 およそ一年とちょっとぶりのバスケの試合。中学で引退してからもう参加することはないと思っていたそれに出場するという想いが、久方ぶりに僕の心を躍らせている。

 

 今は少し緊張しているが、会場に着けば落ち着いているはずだ。

 そう思いながら、僕はふと思ったことをひよりさんへと言う。

 

「彼女と一緒に試合会場に向かうとか、運動部の男子が憧れるシチュエーションだね。実際はちょっと違うんだけどさ」

 

「あははっ! 雄介くんもそういうこと思ったりするんだ? それじゃあまあ、その憧れのシチュを存分に楽しみなよ!」

 

 朝、家の近所に住む彼女に迎えに来てもらって、一緒に部活に向かう。

 多分、きっと、おそらく……運動部に所属している男子ならば、誰だって一度くらいは憧れるシチュエーションなのではないだろうか?

 

 偶然にもそれが叶ってしまったことにちょっと喜ぶ僕が感想を述べれば、ひよりさんは楽しそうに笑ってくれた。

 一緒に登下校ならばほぼ毎日のようにしているし、休日の練習だって一緒に行っていたのに、そこにバスケの試合という要素が加わるとこんなにも新鮮な気持ちになるのかと、僕は改めて驚いてしまう。

 

「あとはあれ? 試合前に彼女にこっそり応援してもらうとかも憧れのシチュだったりする?」

 

「あ~……そうだね。うん、かなりいい」

 

 ひよりさんからの質問に少し考えた後で答えれば、彼女はくすくすと笑った後で改めて僕を見て、口を開く。

 

「頑張ってね、雄介くん! 今日はあたし、一生懸命応援するから……バスケット、楽しんできてね!」

 

 どくん、と心臓が震える。今までのバスケプレイヤー人生の中で感じたことのない高揚感が湧いてくる。

 彼女の存在って偉大だな……と思いながら、僕は幸せを噛み締めつつ、会場へと向かうのであった。

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