ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「うおっす、雄介! 彼女と一緒とか、見せつけてくれるじゃん!」
「おはよう、楽人。家が近いからね。そうなるのが当然なだけで、見せつけてるわけじゃないよ」
「確かに見せつけレベルなら普段のイチャコラの方が上だもんね……納得だぁ……」
「いや、そういう意味じゃないんだけどな……」
徒歩から電車、また徒歩という形で移動して一時間ちょっと、僕たちは会場である市民ホールへと到着した。
想像していたよりもずっと大勢の人たちで賑わう会場に驚きながらもチームメイトたちと合流すれば、楽人と熊川さんが声をかけてくる。
軽く挨拶をして、アップの準備を始めながら、僕は二人へと聞いた。
「もう、組み合わせ表は出てるんだっけ? 誰か確認に行った?」
「今、玲香が見に行ってくれてる。もうちょっとしたら帰ってくるんじゃないかな?」
今回の大会は勝ち抜きトーナメント方式、一試合でも負けてしまえばそこで終わりになってしまう。
結構な数のチームが参加しているようで、総当たり式は難しかったようだ。
家族が見学に来るまでは勝ち残っていたいなと思いつつ、同時にあのボランティア活動の日からちょこちょこ手伝いに来てくれる鉢村さんにも感謝する僕へと、同じくアップの準備をしていた楽人が言う。
「……ありがとな、雄介」
「急にどうしたんだよ? 今はお礼を言うタイミングじゃないでしょ?」
「そうだけど、こうしてみんなで大会の日を迎えられたのもお前が動いてくれたおかげだろ? 改めて、大会が始まる前に礼を言っとこうと思ってさ」
こちらを見ないまま、小さく笑いながらそう言ってくる親友の横顔を、僕は黙って見つめる。
小さく息を吐いた後で、僕はこう言葉を返した。
「……感情的になるなよ。まだ、何かを成し遂げたわけじゃないだろ?」
「ははっ……! いいじゃねえかよ、別に。ずっと、こんな仲間がほしかったんだからさ」
好きなバスケ漫画の台詞を借りた僕の言葉に、楽人が同じシーンの言葉を返す。
こんな仲間がほしかった……その言葉は、僕が思っているよりもずっと重い意味を持っているように思えた。
「この大会が終わっても、バスケ部の活動が再開できるわけじゃない。お前だって、俺たちと一緒にプレイするのは今日で最後になる。先輩たちもマネージャーさんたちもモチベ保ててなくって、不安は山ほどあるけど……」
そこで言葉を区切った楽人は、既にアップを初めている仲間たちを見た。
両手の指を使えば数え切れるくらいの少ない人数。だけど、どこまでも期待とバスケへの愛にあふれた表情を浮かべている彼らを見つめながら、静かに言う。
「今日までの経験が無駄になることなんてない。これから先、どんなことがあっても……今日っていう日の思い出が、きっと俺たちを支えてくれるはずだ」
「……ああ、間違いないね」
失ったものも、不安なことも、楽人の言うように数多く存在している。
だけど、何か一つの支えと信頼できる仲間がいれば、どんな困難だって乗り越えられるはずだ。
今日まで過ごした日々がみんなの心を一つにしてくれた。強い信頼を生み出してくれた。
そしてきっと、今日という日の思い出が楽人たちを支えてくれる思い出になってくれる。
本当に……そうなってくれればいいと、僕は思った。
そのタイミングで、トーナメント表を見に行ってくれていた鉢村さんが大きく手を振って戻ってくる姿が目に映る。
「ちょっ! みんなっ! 大変! 大変だって!!」
「玲香!? どうしたの、そんなに慌てて!?」
「ああ、ひより! 尾上くんも来たんだ! そう、マジで大変なんだよ!」
普段は冷静な(最近はそうでもないかもしれないが)鉢村さんが息を切らせて走ってくる様子に驚いた僕たちが彼女の下に集まる。
ぜぇはぁと呼吸を繰り返して息を整えた後、顔を上げた彼女は僕たちへと言った。
「ここにいないバスケ部の連中と紫村の奴が、大会に参加してる!!」