ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――紫村にそそのかされたであろうバスケ部員たちの突然の乱入を受け、動揺する楽人たち。
しかし、そんなみんなの胸中を他所に、大会は開始時刻を迎える。
僕や間沼くんはある程度平常心を保てていたが、楽人たちバスケ部の正式な部員たちは少なからず動揺していた。
そんな状況で実力を発揮できるか心配だったのだが、どうやら僕たちは対戦相手に恵まれたようだ。
一回戦目の相手は商店街代表のバスケチーム……やや年齢層が高めの大人たちで構成されたチームだった。
実力と体力という面で僕たちが圧倒していたし、そのおかげで負けることもなかったのだが、何よりも幸運だったのは相手が楽しくバスケをしている姿を見れたことだろう。
勝敗なんて関係なく、ただ純粋にこの瞬間を楽しむ。
シュートを外しても、パスカットをされても、何かミスをしても……誰かを責めることなんてせず、一つのプレイの成功を全力で喜び、称え合う。
そんないい雰囲気のチームを目の当たりにしたことで、みんなも自分たちが何を目標にこの大会に参加したのかを思い出せたみたいだ。
ただ楽しみ、今日までの努力の成果を発揮して、仲間たちと団結して全力でバスケをする。
完全にとはいえないが、徐々に固さが取れ始めたみんなの動きも良くなっていき、僕たちが大量リードした状態で試合は終盤を迎えていた。
「ディフェンス! ディフェンス!」
「またあの子が来るぞ~! 今度は全員で協力して止めよう!」
試合も終盤、体力も尽きかけているだろうに、汗だくの男性たちは溌溂とした顔をしながら元気に仲間同士で声をかけ合っている。
最後の最後まで全力プレーを忘れない彼らの姿に、ボールを保持している楽人も油断できないぞといった表情を浮かべていた。
「先輩、こっちっす!」
間沼くんが手を上げながら声をかければ、一瞬のチャンスを見逃さなかった楽人の鋭いパスが飛んだ。
キャッチと共に動いた間沼くんは、柔らかいステップとドリブルで一瞬にして自分のマークマンを抜き去り、ゴールへと近付いていく。
「悪い、任せた!」
「カバー! カバー!!」
しかし相手も簡単にはやられてくれない。ここまで何度も得点を許した間沼くんの動きを予想していたように、二人がかりでカバーに入る。
進行方向を塞ぎ、間沼くんを止めつつボールを奪おうとする息の合ったディフェンス。何年も共に練習し、信頼と練度を積み重ねてきたことがわかる見事な動きに流石の間沼くんも突破を諦め、脚を止める。
そのまま一歩踏み込み、プレスを仕掛けることで彼からボールを奪おうとする相手チームであったが……その瞬間、ゴール近くへと踏み出した僕の下に間沼くんからのパスが飛んできた。
「ナイスパス!」
ディフェンスに触れられないよう、一度バウンドした上でキャッチしやすい高さになるよう調整されたパスを受け取った僕が大声で叫ぶ。
そのままゴール下で大きくジャンプした僕は、ボードを使ったバンクシュートでゴールネットを揺らす。
バンッ、というボードにボールが当たって跳ねる音と、スパッという小気味良いネットが揺れる音を耳にした僕がディフェンスに向かおうとした時、試合終了を告げる大きなブザーの音が響いた。
「くぅ~っ! 負けちゃったか~! 最後も見事にやられちゃったな~……!」
「若い子相手によくやった方だよ。まあ、実力が違い過ぎたな!」
ガハハ、と負けたにも関わらずどこまでも楽しそうに笑いながら、男性たちがコートの中央に並ぶ。
審判の合図で礼をした後、僕は正面に立つ男性に手を差し伸べながら言った。
「ありがとうございました。とても、楽しかったです」
「こっちも楽しかったよ。いいチームワークだった、練習してるんだね」
同じように他のメンバーも対戦相手と握手を交わし、健闘を称え合う。
久々の試合、その終わりが清々しいものになったことを心の中で喜ぶ僕へと、手を離した男性がエールを贈ってくれた。
「俺たちの分も頑張ってくれよ! 最後まで応援させてもらうからさ!」
「はい! 全力で頑張ります!」
そう言って、再びお辞儀をした後でコートを出る。
その途中、横を歩く楽人が声をかけてきた。
「なんとか一回戦突破だな。最後、てっきりダンクでも決めてくれるのかと思ったぜ」
「無理だよ、そんなの。そう簡単にできるもんじゃないって」
おどけながらの親友の言葉とその横顔から、妙な緊張感が消えていることを感じ取った僕は小さく安堵のため息を吐く。
やはり、今の試合はただ勝つ以上のものを僕たちに与えてくれたなと素晴らしい姿勢を見せてくれた対戦相手に改めて感謝の気持ちを抱く僕へと、真剣な表情になった楽人が言う。
「ただ、ちょっとヤバいな。想像以上に体力を使い過ぎた」