ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「そうだね。特に間沼くんがマズいかもしれない」
ここから決勝まで進むとなると、あと二回試合をしなくてはならない。
初戦を終えた現時点では僕としては体力に余裕があるが、それが決勝進出時点でどうなっているかはわからない状態だ。
それに体力の消耗にはメンタルも大きく影響している。
試合開始直後、精神が乱れていたせいで動きが固かったみんなは、必要以上に体力を消耗してしまったはずだ。
加えて、元々ブランクがあって体力が少ない間沼くんも状況が状況なだけに不安が残る。
今はまだ余裕そうだが、残りの試合を勝ち抜いた上で彼がどうなっているのかも、想像ができなかった。
(大会に参加してるチームの雰囲気から考えて、決勝に勝ち上がってくるのは間違いなく紫村たちのチームだ。同じように僕たちが勝ち進めば、みんなも意識せざるを得ないだろうしな……)
今はまだいい。だが、次の試合、その次の試合と勝ち抜いた時、反対側のブロックを勝ち抜いてくるであろう紫村たちのことを意識しないというのは無理だ。 またそれで固さが出てしまったら、体力の消耗も激しくなるだろう。
それに、こっちとあっちでは選手の数が違う。八名しかいない僕たちに対して、向こうはほぼフルメンバーで出場しているし、交代を積極的に行えば体力の消耗も抑えられる。
考えれば考えるほど、不利な状況だな……と僕が思ったところで、目の前にタオルとドリンクが差し出された。
「試合、お疲れ様! 見事初勝利! だね!!」
そう僕に声をかけたひよりさんが、試合に出ていたメンバー全員に同じようにタオルとドリンクを手渡していく。
熊川さんと鉢村さんも声を掛けながら、僕たちを労ってくれた。
「みんな格好良かったよ! 一番は雄介くんだったけどさ!」
「流石はバカップル。試合終了直後にいきなりイチャつくとか、もうそれしか言葉が出てこないわ」
「まあ、気持ちはわかるけどね。尾上くん、大活躍だったし」
そんな普段通りの会話を繰り広げる彼女たちを見ていると、胸の内の不安や懸念が和らいでいくことを感じる。
楽人も真剣な表情から再び楽し気な表情を浮かべる中、彼にタオルを差し出した熊川さんが言った。
「遊佐くんもお疲れ様。汗拭いて、次の試合に備えてね」
「あ、ああ、うん。ありがとう……」
「……格好良かったよ」
「えっ……!?」
ぼそっ、と呟くような小さな声を聞き逃さなかった楽人が目を大きく見開く。
それだけ言い残し、小走りで立ち去った熊川さんの背中をポカンとした表情で見つめている親友のことを僕が愉快に思いながら視線を向ける中、背後から間沼くんが声をかけてきた。
「遊佐先輩、良かったっすね……青春の香りがするっすよ」
「うおおおおっ!? おまっ、志乃!? きゅ、急に出てくんなよ!!」
滅茶苦茶に動揺しながらツッコミを入れる楽人と、バテた表情を浮かべつつ逃げる間沼くん。
そんな二人を笑いながら見つめている僕たちへと、ひよりさんが言う。
「はいはい、はしゃぐのはそこまでにして、汗拭いちゃって! 風邪ひいても知らないよ~?」
「次の試合まで時間あるし、汗がヤバい人は着替えた方がいいと思うよ。入り口近くの売店でシャツ売ってたから、ちょっとお金かかるけど、必要な人は買っときなね」
「「「は~い!」」」
マネージャーらしく選手のコンディションを気遣ってくれるひよりさんと鉢村さんの言葉に、みんなが元気よく返事をする。
気が付けば、先ほどまで漂っていた妙な緊張感は消え去っていて……空気を変えてくれたひよりさんたちに、僕は心の底から感謝した。
「……ひよりさん、ありがとね」
「このくらい、マネージャーとして当然だよ! 雄介くんも残りの試合、頑張ってね!! 目指せ、優勝!!」
僕が言葉少なに感謝の気持ちを伝えれば、ひよりさんは笑顔を浮かべながらそう返してくれた。
多分、自分たちがどれだけ僕たちを救ってくれているか、彼女は理解していないんだろうな……と、小さくとも偉大なマネージャーである彼女の反応から色々なことを思いながら、僕は大きく息を吐く。
(この後、決勝に近付けば近付くほど、また相手チームのことを意識し始めるだろう。でも――)
最後まで楽しもう、今日という日が本当にいい一日だったと、そう胸を張って言えるように。
シンプルで難しい、だけどこの仲間とひよりさんと一緒なら絶対に叶えられると思える目標を抱きながら、僕は次の試合に向けて準備を整えていくのであった。