ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
――続く二回戦は中学生たちが集まって組まれたチームが相手だった。
一回戦よりも苦戦したが、途中出場した間沼くんが楽人からのパスを活かした得意のドライブで敵陣をかき乱し、そこに重ねる形で僕がスリーポイントシュートを量産することでじわじわと点差をつけ、無事に勝利。
しかし、ここで間沼くんがかなり体力を消耗してしまい、続く試合に不安を残すことになってしまった。
続く三回戦……もとい、準決勝は一回戦と同じく大人たちによって構成されたチームが対戦相手になった。
一回戦の相手よりも本格的にバスケをしている強敵……だったのだが、幸か不幸かここまでの試合で相手の方がバテており、二回戦より苦戦せずに勝てたと思う。
それぞれの対戦相手に敬意を払いつつ、向こうからも「残りの試合も頑張って!」とエールを送られつつ勝ち進んできた僕たちは、決勝戦の相手が決まるもう一つの準決勝を観戦している。
かなりの得点差がついているその試合の勝敗はほぼ決まったようなもので、僕と楽人は予想通りの展開に複雑な気持ちになりながら話をしていった。
「やっぱ部長たちが勝ち上がってくるか。ワンチャン、途中で負けてくんねえかなと思ったんだけどな……」
試合終了間際、相手チームと二十点近くの差をつけている紫村たちのチームの様子を見ながら、僕は頷く。
既に試合に出場している選手だけでなく、ベンチメンバーと紫村も勝利を確信しているようで、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「でも、練習はしてないみたいだね。簡単にバテてるし、チームプレーもほとんどしてない」
「ほぼスタンドプレーで得点してるしな。ディフェンスも穴が多いと思うぜ」
試合を見た感じ、そこまで紫村たちのチームが強いとは思えない。
人数と個人技はすごいが、チーム全体に協力する意思というものが見えないからだ。
自分が目立つことや格好いいプレーを披露することを優先しているような彼らのプレーは、確かに上手いといえば上手いと思う。
ただ、派手な動きを優先しているせいで無駄が多いし、その無駄が余計な体力の消耗とディフェンスの穴に繋がってもいた。
そしてその個人技もかつてエース候補として期待されていた江間の方が上だし、そこまで脅威を感じられるものではない。
「これ、あれだね。一番活躍した人には特別なご褒美をあげる~! とか、紫村が言ったパターンだね」
「あり得る……っていうか、ほぼ間違いなさそうなんだけど……」
女の勘、というやつなのだろうか? ぼそりと呟いた鉢村さんの指摘は、的を射ているように思えた。
あのチームは勝つことは当たり前で、自分たちがどれだけ活躍できるかを競い合っているようにしか見えない。
同時に、あの紫村のことだから上手いこと藪瀬部長たちを操って、やる気を引き出しているのだろうと……彼女があのチームの雰囲気に関与しているという嫌な意味での信頼もあった。
「まあ、それでも勝てる選手層があるから厄介なんだけどな」
「確かにね。こっちは向こうに比べて体力の消耗が激しい。だけど、勝ち目がないなんてことはないはずだよ」
出場するメンバーを頻繁に変え、体力の激しいプレーをさせながらも同時に回復の機会も多く作れるという部分に関しては、間違いなくあちらの方が有利だ。
だが、こっちには向こうにはないチームプレーという武器がある。それさえ活かせれば、十分に勝機はあるはずだ。
僕がそんなことを考えていたところで、同じく試合を見ていた間沼くんが小さな声で疑問をこぼす。
「……楽しいんですかね、あの人たち。あんなバスケで……?」
その言葉に、僕たち全員が彼の方を見た。
いきなり注目されてばつが悪そうにしながらも、間沼くんは頬を掻きつつ僕たちへと言う。
「いや、あの人たちってバスケを楽しんでるのかなって、そう思ったんです。笑ってはいるけど、あれは勝ってることを喜んでるだけっていうか、バスケ自体を楽しんでるわけじゃないように見えたんで……」
間沼くんのその言葉は、相手チームの本質を突いていた。
実力は参加チームの中でも上位。だが、チームの内部には活動停止処分を食らった時から続く不和と不信感が残っている上に、味方同士の分断を煽るような紫村の言動もあると考えれば、その実情は結構悲惨だろう。
そんなチームでやるバスケが楽しいわけがない。
というより、それはバスケとは呼べない別の何かだと、僕は思う。
コートに立つ五人も、それを支えるベンチメンバーやマネージャーたちも一丸となって勝利を目指す。それがチームスポーツのあるべき姿であり、僕たちが愛しているバスケットボールだ。
同じコートの中にいるだけの仲間とも呼べないチームメイトと足を引っ張り合いながら活躍することを目指す……そんなものをバスケだと認めるわけにはいかない。
(でも、だからといって勝つことを目標にしたらダメだ。僕たちは相手を否定するためにバスケをするんじゃない。自分たちが楽しめるバスケをするんだ)
憎しみや対抗心、そして敵愾心を燃やして試合に臨めば、きっと紫村たちと同じになってしまう。
そう自分に言い聞かせつつ、僕は試合に向けて気持ちを整えていった。