ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「それではこれより市民バスケットボール大会決勝戦を開始します! ゼッケンは赤と白! お互い、スポーツマンシップに則って、いい試合をしてください!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
審判を務める男性の言葉に対し、僕たちは大声で返事をする。
対して、そんな僕たちの正面に並ぶ藪瀬先輩たち五人は、ニヤニヤと笑ったまま小さな声で返事らしきものを呟いただけだった。
その態度に嫌なものを感じながらも、この程度のことで苛立っても仕方がないと気持ちを切り替える。
頭はクールに、心は熱く……と、自分に言い聞かせながらジャンプボールのためにコートの中央に向かった僕へと、楽人が目配せしてきた。
「……!」
トントンッ、とステップを踏んだ後でゴールを見た相棒が何を言わんとしているか理解した僕が指でオーケーサインを作って応える。
改めてジャンプボールに備えようとした僕の耳に、今度はひよりさんの声が響いた。
「雄介くん、ファイトっ!!」
「くくっ! 雄介くん、ファイト~! だって、かわいい彼女だな、ええ?」
僕の近くに立っていた藪瀬先輩がひよりさんの声援を馬鹿にするように真似する。
そんな彼を一瞥した僕へと、先輩はこう言葉を続けた。
「せいぜいあのデカパイちゃんに嫌われないように頑張れよ。ダサいプレーを見せて、幻滅されても俺らのせいにしないでくれよな?」
「………」
何か言葉を返す価値すらない発言だった。
言いたいことはあるが、口を開いて声を発するという行為に対する労力を使うこと自体がもったいないと、そう思いつつもひよりさんに対する侮辱を許せない気持ちを燃え上がらせた僕は、何度も開いて、閉じてと拳の運動を繰り返す。
(さて、やるか)
あくまで冷静に、自分のすべきことを把握しながら息を吐く。
そのタイミングでボールを手にした審判が、それを高く放り投げ……試合が始まった。
「ふっ……!!」
投げられたボールが最高高度に達したところで膝を曲げ、大きくジャンプ。
同じく跳躍した相手チームのセンターよりも高く、そして速く跳んだ僕は、手首をスナップさせてボールを楽人の方へと弾く。
僕がジャンプボールに勝つと確信していた相棒は軽いステップの後で即座に最高速度に達し、そのままあっという間に敵チームの選手全員を抜き去ってしまった。
「は、速……っ!?」
そんな藪瀬先輩の呟きが聞こえた時にはもう、楽人はレイアップシュートを決めていたところだった。
電光石火という表現が相応しい速攻で先制点をもぎ取った楽人はディフェンスのために自陣に戻る途中、僕に手を差し出す。
「愛してるぜ、相棒。ドンピシャで合わせてくれるとか、やっぱお前は最高だよ」
「そっちこそ、ナイスシュートだった。先制点をいい形で取れたね」
差し出された手に自分の手を伸ばし、お互いを称え合いながらタッチをする。
気が抜けていた相手に奇襲して先制点をもぎ取ったことで、開始早々試合を僕たちのペースに持ち込むことができた。
まずはこの第一ピリオドでリードを取る。体力の差が顕著に出てくるであろう後半に備えて、できる限り点差をつけておきたいという目論見があった。
そのために必要なのは積極的なオフェンス……ではなく、粘り強いディフェンスだ。
守備はしんどいが、ここを大事にできないチームに勝利はない。
特に今回は実力が伯仲している相手だ。攻めるだけで勝てるはずがないだろう。
「さあ! 一本守っていくぞ! 気合い入れろよ!!」
誰よりも気合いを入れた楽人が大声で叫ぶ。
その熱にあてられるように大声を出したチームメイトたちと共に、僕もまた冷静に状況を見極めつつ、守備の要として自分のすべきことを判断していくのであった。