ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
僕のポジションはセンター。最もゴールに近い位置で味方と敵の位置を確認しつつ、インサイドの守りを担当する役目がある。
味方が敵に抜かれたらそのカバーに入るのも僕の仕事(正しくは味方チーム全員の役目だが)で、いつでも動けるように気を張っておく必要があった。
「ちっ……!しつけえんだよ、お前……っ!」
「そりゃどうも! 先輩に褒めてもらえて嬉しいっすよ!」
楽人にマークされる藪瀬先輩は、粘り強いディフェンスに苛立ちを隠せないでいた。
身長差はあるものの、平面の戦いならば楽人の方に分がある。しかも、今回のように相手が連携する気配がないのならば尚更の話だ。
(五秒ルールがあるから先輩は何かしらのアクションを起こさなくちゃならない。あの状態で取る選択肢といえば――)
バスケのルール上、プレイヤーはボールを保持し続けることはできない。ディフェンスからプレッシャーをかけられている選手は、五秒以内にドリブルやパス、シュートといった何らかの行動をしなければ反則となり、ボールを失ってしまう。
当然、藪瀬先輩もそれを理解しているだろう。だからアクションを起こそうとする。
べったりと楽人に張り付かれているから強引なドリブルによる突破は無理、ゴールから遠く離れている位置からのシュートなんて論外。
となると、残された選択肢は……と考える僕の前で、藪瀬先輩が苦し紛れのパスを出す。
「あっ!?」
ただ、連携するつもりのない先輩が放った緩いパスは、あまりにも格好の的過ぎた。
元々、その選択を予想できたこともあってか、簡単にパスカットをしたこちらのチームの選手がそのままレイアップシュートを決め、さらに得点差をつけてみせる。
「よしよしよし! ナイスカット! ナイスシュート!!」
「くそっ、ちゃんと取れよ……!!」
相手のことまでちゃんと考えてプレーしているチームと、自分のことしか考えていないチームの差が出た。
藪瀬先輩たちもここまで余裕で勝ち抜けたせいで気が抜けてしまっているのだろう。そこが、僕たちが付け入る最大の隙になる。
「もう一本! ディフェンスからリズム作ろう!!」
「うっぜぇ……! いつまでも調子に乗ってんじゃねえよ!」
味方を鼓舞する楽人の声掛けに苛立ちをマックスまで振り切らせた藪瀬先輩が、まだディフェンスと距離が空いている状態から一気にスピードを上げる。
張り付かれる前に抜き去ってしまえというその判断は正しく、不意を突かれた楽人は先輩に抜き去られてしまった。
「くっ! 雄介っ!」
「カバー入るよ!」
声を掛けられるまでもない。ここでフォローに入るのが僕の役目だ。
突っ込んでくる先輩の進行方向を塞ぐようにポジショニングしつつ、次の手を読む。
強引にドライブを続けてのレイアップシュート。立ち止まってのジャンプシュート。あるいは、元々僕が付いていたがカバーに入ったことでフリーになった味方へのパス。
パッと思い付くだけでこれだけの選択肢がある。この中から、藪瀬先輩が何を選ぶかを予想し、それを防がなくてはならない。
普通ならばかなり困難な判断を迫られることになるが……今、この瞬間に関しては別だ。
敢えて彼が突っ込める隙を作るディフェンスをしてやれば、藪瀬先輩は僕が生み出したその道を何のためらいもなく選び、ゴールへと近付こうとする。
(だよね。絶対、パスなんかしないでしょ?)
相手のチームは自分が活躍することだけを考えている。ここで味方にパスをして、大好きな二奈ちゃんの前で格好いいプレーをさせるお膳立てをすることなんて考えるはずがない。
そして、つい先ほどパスカットからのレイアップシュートを決められたばかりの先輩ならば、同じ方法でやり返しつつ、評価の挽回を狙うだろう。
今、先輩の目にはゴールしか見えていない。自分が打とうとしているシュートのタイミングや位置が僕に誘導されたものだなんて微塵も想像できていないだろう。
そんな彼と同じタイミングで跳んだ僕は、先輩の手から離れたボールを空中で叩き落した。
藪瀬先輩が驚きに目を見開く中、こぼれたボールをキャッチした味方が楽人へパスを出し、楽人はさらに前を走っていた味方にパスを出す。
「なっ、なっ、なっ……!?」
僕のブロックから続く流れるようなパス回しによって、またしても速攻が決まった。
シュートを防がれ、着地と共に振り返った時には相手がシュートを決める段階だったことに驚きを隠せないでいる藪瀬先輩を一瞥しつつ、僕は再びディフェンスに備える。
(第一ピリオドは完全に僕たちの空気だ。五分しかないのが痛いな……)
相手の油断を突く動きで着実にリードを重ねられているが、最初の五分が終わればこの空気もリセットされてしまう。
しかし、逆に言えばこの五分間はこちらが好き勝手できるはずだと考えを切り替えた僕は、味方と協力して着実にリードを作っていった。