ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする   作:烏丸英

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計略の第二ピリオド

(ここで選手交代? この大事なタイミングで投入するレベルの選手なのか……?)

 

 コートに戻ってきた選手の内、一人だけ顔が変わっている。

 僕が第一ピリオドでマッチアップしていた選手はベンチにいて、その代わりとして別の選手が出てきていた。

 

 それだけならば普通の選手交代として納得できるが、少し疑問に思うところがある。

 今、交代出場した選手が、そこまで強そうに見えないということだ。

 

 身長は普通より少し大きいくらいで、スタメンとして出ていた選手よりも小さい。

 そこは別に構わないとして、問題は体型だ。

 

 言葉を選ばずに言うならば、運動部とは思えないほどに太っている。

 表情も緊張しているようだし、場慣れしているという感じでもなさそうだ。

 

「俵山? なんであいつが……?」

 

「楽人、彼はどんなプレイヤーなの?」

 

「いや、その……こう言っちゃ悪いけど、そんな上手くねえぞ? 高校からバスケを始めた初心者組だし、特段武器があるってわけでもないはずだけど……?」

 

 実際にバスケ部で彼のプレーを見ていた楽人の評価を聞いた僕は、増々困惑してしまった。

 俵山という名前の彼は、どうしてこのタイミングで試合に出ることになったのか? その理由を、プレー再開までの短い時間で探り当てようとする。

 

(体力温存のための交代……? いや、インサイドでのパワー勝負に持ち込もうとしているのか?)

 

 相手チームにとって、自分たちの攻撃から始まるこのピリオドの出だしは非常に重要なはずだ。

 そのタイミングでベストメンバーを投入しないというのは考えにくい。この交代にも、何か理由があると考えた方がいいだろう。

 しかし、その明確な答えが見つからないままに第二ピリオドが始まってしまったため、僕はとりあえず俵山くんのディフェンスについた。

 

「ふぅ、ふぅ……っ!!」

 

 出場してほんの数秒だというのに、既に俵山くんは息が上がっている。

 緊張による疲労だろうか? 表情から考えても、彼はやはり試合慣れしていなさそうだ。

 

 それに、センターの選手だろうに内側に入ってポジションを取ろうともしていない。

 体格を活かしたパワープレイをしてくるつもりなのかとも考えたが、そもそも彼にボールが回ってこないのだ。

 

 結局、相手の攻撃は普通に失敗し、こちら側のボールになった。

 しかし、僕の疑念は一層強まっている。

 

(試合を投げたのか? でも、だったら俵山くんだけを出すっていうのはおかしい。全メンバーを交代する方が自然だ)

 

 第一ピリオドでの失点で相手チームが萎え、やる気がなくなったという可能性も考えはした。

 でも、だったらどうして一人だけ交代するんだと話になる。僕のマッチアップ相手のみが萎えたのかもしれないが、ベンチを見る限りそんな感じではない。

 

 いよいよもって相手の思惑がわからなくなってきた僕であったが、今はプレーに集中しようと考えを切り替え、ボールを取りにダッシュした。

 ストップ&ゴーを活かした僕の動きに慌てた俵山くんは、脚をもつれさせて転んでしまう。

 

「うっ、うわあっ!?」

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

 大声を出しながら転んだ彼に申し訳なく思いながらもシュートを決めた僕は、俵山くんを心配して声をかけた。

 しかし、彼は僕を睨んだ後、無言で駆け出してしまう。

 

(ガッツはある。油断しちゃいけない相手だな……)

 

 緊張もしているし、動きも固いが、間違いなくやる気は持っている。

 何か目的があってこのコートの上に立っているであろう俵山くんは、決して油断できない相手だ。

 誰が相手でもそうだが、気を抜くことは許されない。相手への敬意を示しつつ、全力でプレーするべきだろう。

 

「パス出すぞ! ちゃんと取れよ!!」

 

「っっ!!」

 

 今、藪瀬先輩から俵山くんへとパスが渡った。

 この試合で初めてボールを手にした彼は、緊張した面持ちで僕と対面する。

 

 センターらしくインサイドでボールを受け取るのではなく、スリーポイントライン外での1on1でもするかのようなポジションでのボール保持。

 ここから切り込んでくるのか? あるいはパス回しで場をかき乱すのか? はたまた予想外のスリーポイントシュートを繰り出してくるのか?

 

 何をしてくるかわからない俵山くんを止めるため、僕は彼の前に立ってディフェンスの構えを取っていたのだが……荒い呼吸を繰り返した彼は、次の瞬間に信じられない動きを見せた。

 

「ふっ、ふっ、ふ~っ!!」

 

「えっ……!?」

 

 まるで蒸気機関車が煙を噴くような音を響かせながら、俵山くんが突っ込んできた。

 僕を躱して抜き去るような動きではない。彼の進行方向を塞ぐ僕目がけて、文字通り、頭を前にして突っ込んできたのである。

 

 ガツンッ、という鈍い音が僕の中で響いた。

 同時に、左目に激しい痛みを覚えた僕は、俵山くんの突進の勢いのままに吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ、つぅぅ……!!」

 

「雄介くんっ!?」

 

 自分自身の呻き声、ひよりさんの悲鳴、楽人たちが駆け寄ってくる足音、審判が鳴らす笛の音……色んな音を聞きながら、ジンジンと痛む左目を押さえる。

 薄っすらと見える右目の視界に映った、奇妙な笑みのような表情を浮かべている俵山くんの姿を目にした僕は、そこで全てを理解した。

 

(気付くのが遅過ぎた……俵山くんは、僕をコートから追い出すために出てきたんだ……!!)

 

 

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