ちっちゃくてデカくて可愛い七瀬さんを勘違い元カレから奪って幸せにする 作:烏丸英
「ダメだよ、遊佐くん! 気持ちはわかるけど、落ち着いて!」
「熊川さん、でも……っ!!」
「尾上くんが離脱しちゃって、そこからまとめ役の遊佐くんまで退場ってことになったら、誰がみんなを引っ張るの?」
「っっ……」
マネージャーからそう問いかけられた遊佐の動きが止まる。どうやら今の言葉で冷静さが戻ってきたようで、これ以上は暴走してくれなさそうだ。
「君、ベンチに戻りなさい。少ししたら、試合を再開するから」
「……はい。お騒がせして、申し訳ありませんでした」
審判も助け船を出し、遊佐を自分のチームのベンチへと帰らせる。
余計なことをしてくれたペチャパイ女に心の中で舌打ちをする中、信販との話を終えた俵山たちが戻ってきた。
「へ、へへへ……! 作戦成功だね、二奈ちゃん……! お、俺、頑張った、よね……?」
「うん、そうだね。俵山くんのおかげで一気に勝ちに近付いたよ。ありがとうね」
ひぃふぅと荒い呼吸を繰り返す俵山が、ネチャッとした粘着的な笑みを浮かべながら私へと言う。
普通に気持ち悪過ぎるその笑顔に嫌悪感と吐き気を催しながらも業務スマイルで応えてやった私へと、俵山は調子に乗った様子でこう続けた。
「は、鼻を潰してやるつもりだったんだ。二奈ちゃんにひどいことした罰になるし、変な顔になれば、彼女からもフラれるんじゃないかって思って……! でも、ギリギリで避けられちゃった。残念だなぁ……!!」
「気持ちはわかるけど、あんまりやり過ぎるのはダメだよ? 今のでもギリギリだったんだし、行き過ぎたラフプレーは事態を悪化させかねないしね」
「わ、わかってる。大丈夫だよ、二奈ちゃん……!」
ああ、本当に気持ちが悪い。でも、この気持ち悪さと嫉妬心があるからこそ、俵山はラフプレーをしろという私の命令を従順に聞く手駒になってくれている。
あとはご褒美として適当に肌を露出した自撮り写真でも送ってやれば満足してくれるんだから、こいつは本当に使いやすい奴隷だ。
「二奈ちゃんの作戦通り、一番デカい奴をコートの外に追い出せた。もう怖い奴はいない。ここから一気に逆転だ! 調子に乗ってる遊佐たちをわからせてやろう!」
守りの要がいなくなった今、得点はかなり簡単になる。
それは即ち、攻撃という最も楽しく私へのアピールができる機会で好き勝手できるということで……チームのみんなは明らかに目の色が変わっていた。
多分……いや、間違いなくこいつらはここから俵山に負けじと活躍するために全力のパフォーマンスを見せるだろう。
第一ピリオドでつけられた得点差も簡単に逆転できる。むしろ、ここからはこちらがどこまで相手に差をつけられるかを楽しむだけの試合だ。
「みんな、頑張ってね!! 応援してるから!!」
勢いをつけるために笑顔でそう言ってやれば、単純な男たちは大盛り上がりを見せた。
本当に馬鹿な連中だ。自分たちが今、どんな状況にいるのか全くわかっていない。
多くの人間が集まる市民バスケの大会、それも一番注目される決勝戦でこんな真似をしたら、周囲からどう見られ、どんな印象を与えるのか、これっぽっちも考えていないのだろう。
しかもチーム名に高校の名前が入っている。その状態でこんなラフプレーをしたら、活動停止処分を食らったのにも関わらず一切反省していないと思われても仕方がない。
まあ、そもそも反省なんかしていないからそれは正しいのだが……こいつらは今、全力で自分たちの首を絞めていることを理解していないのが本当に笑える。
遊佐たちに最悪な思い出を残すだけでなく、役立たずのこいつらを最後まで利用し尽くした上でバスケ部を完全崩壊させること……それが私の真の目的だ。
あのファールは部活内の亀裂を決定的なものにした。あとは、遊佐たちが惨めに負けることでバスケへの情熱を失えば全てが終わる。
尾上も七瀬も遊佐もバスケ部も、全員が不幸になる未来がもうすぐそこまで迫っているのだ。
そのことに気付いていない馬鹿たちと、お通夜みたいなムードになっている相手ベンチを見て、私は一人ほくそ笑む。
これが私を傷付けた報いだと……そう心の中で復讐の成就を確信しながら、私は待ち望んだ瞬間の到来を期待し続けるのであった。